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​メイプル ピアだより

~​過去のコラムをご紹介します~
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✨ 9月のコラム 「野澤先生のご講演」

 

8月25日に、野澤桂子先生のご講演「わたしらしく生きるために~アピアランスケアの視点から~」を開催しました。都心の日中はまだ暑さが続く中、たくさんの方にお集まりいただき、共に貴重な時間を過ごすことができました。

参加したいけれど都合がつかなくて、、、というお声もいただいていましたので、ここでご報告させていただきます。

野澤先生のお話は、アピアランスケアの研究を始められたきっかけとなったパリ在住の頃のお話からはじまりました。その後、さまざまな臨床実践や研究活動を経てアピアランス支援センターを立ち上げられた2013年当初は、「国がんが上っ面のことを始めた」という医療者からの反応もあったくらい、アピアランスケアへの理解がまだなかったそうです。

少しずつ周囲の理解が進み、今ではがん対策推進基本計画に「アピアランスケア」のことが盛り込まれ、治療とともに重視されるようになってきました。このような時代にがん治療を行っている私たちは幸せだなあと感じました。

「外見の苦痛はどこからくるのか」というお話も、いくつかの事例をもとにお話くださいました。

後半は、参加者同士でアピアランスについての悩みを話し合ったり、疑問や質問に先生にお答えいただいたりという場となりました。

参加者からの感想の一部をご紹介します。

「脱毛の悩み、ウィッグをいつやめるかという悩み、皮膚や爪についての悩みを話し合い、先生のお考えをお聞きできたことはとても有意義な時間でした。」

「野澤先生がアピアランスケアを研究されてきた原点のお話を伺い、感無量でした。パックスマンの再発毛のお話など、率直なお考えを聞かせていただき大変参考になりました。」

「アピアランス全般のお話はもちろんですが、外見はこの世をサバイブする道具として使うという指針、もっと早く知っていれば!と感じました。賢い患者になってこれからサバイブしていきます。」

「先生のお人柄が伝わってきたので、PCがなくてかえってよかったかもしれないと思いました。」(画像をたくさん用意してくださったのに、PCをお忘れになり『今日は想像力を最大限駆使して聞いてください』との前置きからのスタートでした(^^)💦)

「必ずしもウィッグを必要としない社会になってほしいという思いがある一方で、がんと就労の問題を突き詰めるとアピアランスに行きつくし、、、ずっともやもやがありました。今日のお話で外見、社会、心理の3つの側面があるのだとわかり、どれが正解というわけではないという点がすっきりしました。」

「フランスと日本との考え方の違いがいろいろと興味深く、がん患者としての治療中の心の持ち方や周囲との関わり方が参考になりました。」

先生からの、患者は好きにしていい!時には社会とつながるために外見を使い分けてもいい!たくましく生きていってほしい!というお言葉は、自分らしさを大切に!というメッセージとともに、私たちの心に響いたように感じました。先生の、がん患者を応援するお気持ちがひしひしと伝わってきた講演会でした。

 

                         2024年9月1日

 

 

🐶 8月のコラム 「ストレスとの私流向き合い方」

今年の夏野菜は、枝豆がいまひとつでしたが、トマトやナスは昨年以上に順調です。早い時期からの高温が影響しているのかもしれません。

 

ところで、先月コロナに感染しました。最初、職場でもらった風邪と勘違いして受診が遅れたせいもありますが、高熱とひどい咳、喉の痛み、腰痛に悩まされました。

 

そんな時に頼みの綱だったのは同居人の夫。1日2時間の散歩が必須、他人様には決して頼めないパワーがありあまる犬(保護犬たるゆえんです💦)を面倒みなくてはならなかったからです。

 

ところが、まもなく夫も感染し、ピンチを迎えました。4日目にしてまだ微熱や咳、喉の痛みがある身でふらふらしながらの散歩は、人通りを避け、後遺症が残るのではという不安にさいなまれながらの極限状態でした。

 

その後まもなくして、夫がいち早く回復したとわかるやいなや、ふらつきや吐き気がとたんにおさまったのだから不思議です。すぐに思いついたのは、ストレスでした。私の一番のストレスであった犬の散歩を回復した夫が担ってくれる、そう思っただけで楽になりました。

 

実は、私はストレスに弱い人間を自負していましたが、がんになってからはそれを克服したいと思うようになりました。心がけていることは、1日の中でほんの少しでも「無」になる時間をつくること。どんなにつらい時でも、自分の好きなことを夢中でやっている時ってストレスを忘れてしまいますよね。幸せホルモンの成せる技だと思います。

 

かつて夢中になった折り紙は、まさにそれでした。16B病棟の看護助手さんに教えていただいて作った「薔薇」で部屋中あふれかえった時期がありました。

 

その後、お世話になった方々や友人に額縁に入れてプレゼントしたものだから、もらったほうはずいぶんと有難迷惑だったと思いますが(笑)。

 

慢性腰痛の痛みが続くのは、ストレスや不安などの精神的要因が脳に影響を及ぼすことがあると言われています。ストレスや不安にさらされている間に脳がもつ「痛みを和らげる仕組み」が働かなくなってしまうと。そのような時、脳って意外と単純だから、身体をちょっと動かしてみて、あっ痛くない、という経験を積んでいくことで負のスパイラルから抜け出すことができることがあるそうです。

 

がんの治療薬の効果と、服用する人のストレスとの関係が研究され、一定の関係が見出された、とのニュースも最近知りました。その研究だけで断定的なことはまだ言えないそうですが。

 

「いかにストレスをうまく制するか」は今後も私たちにとって大切なことのひとつになっていくと思います。

 

みなさんの体験やエピソードもお待ちしています。

 

                     2024年8月1日

🔍 7月のコラム 「見極める力」

  

梅雨の時期は、外出の際の服選びに迷うことが多いですが、この頃はいきなりの猛暑日だったり、

天気が急変しそうだったりと、さらに見極めが難しく感じます。

 

「選ぶ」と言えば、時々おしゃべりサロンで話題となるのが、「治療法の選択」です。選択肢が

増えていることは私たち患者にとってありがたいことであるのですが、自分にとって一番良い、

後悔のない選択を時間の制限のある中でしなければならないというプレッシャーは、以前にも増して

大きくなっているように感じます。

 

その選択の際に、まず必要となるのが「正しい情報」の入手です。主治医からの情報、ネットやテレビ、

本などから得られる情報、同病の方から得られた情報、、、情報源はさまざまだと思いますが、

何よりも大事なのは「情報の信ぴょう性」です。

 

「か・ち・も・な・い」と言う言葉を聞いたことがありますか?

 

か…書いたのは、だれか?(発信したのはだれか?)

ち…違う情報と比べたか?(他の情報も調べて比較したか?)

も…元ネタは何か?(ちゃんと根拠はあるのか?)

な…何のための情報か?(金儲けではないのか?)

い…いつの情報か?(情報が古くないか?)

 

とくに、ネットなどの健康情報の中には、残念ながらいい加減なものが少なくありません。医療情報

には、とても巧妙に読む人を信じ込ませるような書きぶりがなされているものもたくさんあります。

そのため、正しい情報かどうかを判断するためのチェックポイントとしてこの合言葉が生まれたそうです。

 

私がこの「か・ち・も・な・い」を知ったのは、今から5年くらい前に「正しい情報を得るには」

(たしか、このようなタイトルだったと思いますが、確信はないです。すみません。)なる講演会に参加した

時でしたが、今でもネット情報を見る際には活用しています。というのも、私はかつて、後で考えたら怪しい

と思われる医療情報を信じ込んでしまったことがあるからです。

 

また、治療ではないのですが、かつて、アピアランスケアのためのグッズを検索していた時に一番上に

出てきた魅力的な情報に飛びついてしまい、他のものとじっくりと比べてみるということをしないで

購入してしまったことがありました。決して安くない買い物だっただけに、後になってとても後悔した

という苦い経験もあります。(お恥ずかしながら)

 

ネットにはいろいろなからくりがあって、例えば、検索の上位に上がるのはあくまでも料金を払って

上位に上がるようにしているだけの場合があるので注意が必要だということも、やはり後になって知りました。

 

みなさんも、情報の見極め方にはくれぐれも用心して正しい情報を手に入れるようにしてください。

 

                    2024年7月1日

 

🥀 6月のコラム 「アドバンス ケア プランニング」

 

 

今年も、紫陽花の花を目にする頃となりました。またひとつ季節が移り変わるのだなあと感じます。夏はもう間近ですね。

 

夏と言えば、昨年、看護部長の關本さんがおしゃべりサロンにいらしてくださった折に、「アドバンス ケア プランニング(ACP)」のことが話題になったのを思い出します。

 

ACPは、本人の意向や価値観、目標、気がかりなことなどをもとに「もしもの時にどのように医療、ケアを受けたいか」について考えていきます。ご自身の考えをお話する方、お話をうなずきながら聞く方とそれぞれでしたが、みな一様にACPのことをご存じだった様子。さすが、がんを経験している私たちは意識が高いのだなあ、と感じさせられたひとこまでした。

 

私は、乳がんになったのをきっかけに、仕事のこと、ACPのことなど人生のこれからを考えるようになり、両親の介護問題が切実となった時に、よりいっそう身近なこととなりました。そんな折しも、ACPをテーマに人生を考えるというお話を聴く機会がありました。

 

「これまでの人生の振り返りから棚おろしをしていくこと」「人生の最後にフォーカスするのではなく、自分のことを知る、大切にしたいことを知ることからはじめるとよい」「あらためて考える時間をつくらずとも、思いついた時にメモしていく、ACPノート(※)に書き込んでいくのも一方法」

 

親の場合は話を切り出すきっかけとして、「どこに行きたいか。」といった話から始めてみるのもよいのでは、とのお話にも、思わずうなずいてしまいました。

 

また、ALP(アドバンス ライフ プランニング)という言葉があるのをはじめて知りました。ALPは、もっと前の健康な時から人生観や死生観を元に「自分は何を大切にしているのか」「どのような人生を歩みたいのか」などを考えていくものだそうです。

 

もし、かかりつけ医がいたら、このALPをお伝えして共有しておいていただくといい、というお話には、このような話が気軽にできるかかりつけ医を早くみつけたいなあ、と思いました。

 

日本は欧米と違って、元々一人一人が死生観をもつ風土がない国と言われています。今の日本の社会を生きる私たちにとって、ACPはALPの延長線上にあるもの、と考えて、若いうちからALPを意識して生きることの大切さを感じた1日でした。

 

本格的な暑さを前にした今の季節に、適度に動かしながら徐々に身体を暑さに順応させていくとよいそうです。無理せずにお過ごしください。

 

           

                        2024年6月1日

 

※ACPノートは、東京都保険医療局が出している「わたしの思い手帳」などネットからダウンロードできるものや、書店で購入できるものなどいろいろあります。

👩 5月のコラム 「がんが見つかった当時を振り返って」

 

 

私が自分の病気を知ったのは約11年前、子どもが小学5年と小学3年の頃でした。

 

何も分からないほど小さくはないけれど、まだまだ子どもという年齢でした。家の近くのクリニックで病気を宣告された日は、息子の林間学校への出発日前日でした。浮かれ気分の息子とは裏腹に気持ちはどん底でしたが、息子に悟られたくないと私も明るくしていたのを覚えています。

 

当時は病気のことは子どもには伝えないつもりでした。手術をして終わりにできるなら黙っておこうと。子どもの前ではただの『元気なお母さん』でいたかったんです。

 

そして、病院へ紹介状を持って行った初診日のことです。私の家族構成を知った看護師さんが診察終了後に追いかけてきてくださいました。「病気のことはきちんとお子さんに伝えてね」と、子どもへの伝え方なる冊子やチラシを手渡してくださいました。内容はうろ覚えですが、あなた(子ども)のせいで病気になった訳ではないと伝えるなど、いくつか伝えるべき内容が書かれてあった気がします。11年前の時点で子どもに対しても積極的に伝えることが推奨されていたようです。

 

私はそれらをこっそり病院のゴミ箱に捨てて帰りました。お気持ちはありがたかったのですが、伝えないと決めていたのでね。当時の看護師さん、本当にごめんなさい。絶対に伝えるべき、という看護師さんのアドバイスを受け入れなかったことで、その後少しの間、自分は間違っているのではないかとモヤモヤした記憶があります。

 

手術の際は『胸に出来た脂肪の塊を取る』と子どもに伝え入院し、手術を終えました。ここまでは計画通りだったのですが、なんとリンパ転移していて抗がん剤治療になったのです。もう伝えるしかない、観念しました。脱毛でバレますからね。

 

息子と娘を前に大切な話があると切り出しました。手術で取った脂肪の塊は調べたらがんだったこと(最初からがんですが…)、取ったから今はがんは無いこと、でも目に見えないほどの小さいがんが残っていたら困るから予防のために抗がん剤という治療をすること、それをすると髪の毛が抜けること、そしてこの事は他の人には内緒にしてね、髪がないことを知られたら悲しいから、と。

 

子どもに口止めなんてとんでもないと思うかもしれませんが、子ども経由で周囲の人に知られた場合、厄介だと考えました。がんという病名は人によって捉え方がそれぞれです。私の知らないところで周囲の大人やお友達が我が子に何を吹き込むか分かりません、不安にさせたくなかったんです。息子と娘は内緒の約束はきっちり守っていたようです。

 

抗がん剤治療中は家の中ではみっともない姿をさらけ出し、ただの『弱ったお母さん』になりました。どんな風に見えていたのでしょうか、未だ聞けずにいます。

 

子どもの性格や親の考え方、周囲の環境、病気の状態などそれぞれが皆違います。今、振り返ってみても、無理なくやれることがその時のベストな形のような気がしています。この先も生きている限りは色々な試練があると思いますが、今後は大きくなった彼らが頼もしい存在になってくれることと思います。


                         R. K

                    

                    2024年5月1日

🌸 4月のコラム 「看護外来を知っていますか?」

 

 

花の季節ですね。

昨日のおしゃべりサロンの部屋から見えたソメイヨシノは、残念ながらまだ一分咲きでしたが、

すぐ近くのハナモモの花が満開で、鮮やかな色に目を奪られました。ちょっと得した気分でした。

 

ところで、みなさんは、A外来にある「看護外来」を知っていますか?

 

広く知られているだろうと思っていたのですが、話題になった際に「初めて知った。」という声がちらほら。そこで、今回取り上げてみることにしました。

 

「看護外来」が始まったのは3年前の今頃です。ちょうどメイプル ピアが生まれた頃と一緒です。そこでは、乳がん看護認定看護師の方が、患者のさまざまな悩みに寄り添い、一緒に考えてくださいます。悩みの解決方法を探す中で、いくつかの道を提案してくださることもあれば、時には診察に同行してくださることもあります。

 

かつての私は、主治医にどのように質問したらよいのか、主治医の話をどう理解し、受けとめたらよいのか、などと常に頭が混乱し、不安の渦の中にいました。そのような時に、A外来の看護師さんへの相談は大きな救いとなりました。

 

「看護外来」ができたのはコロナ禍でしたので、もしかすると私のように相談したい人がいても、待合室の席で看護師さんに気軽に相談できる状況でなかったこともあるのではないかと思っています。

 

事前に予約が必要とはなりますが、患者に向き合う時間をしっかりと確保してくださるようになった、という意味ではありがたいことでもあります。

 

担当看護師の垣本看子さんは、次のようにおっしゃっています。

 

『看護師は、皆様の力になりたいと考えています。がんと診断を受け混乱しているとき、治療の選択肢で迷っているとき、医療者とのコミュニケーションに不安を感じるとき、なども含め相談したいことが明確になっていない場合でも、ご自身の考えや今ある情報を一緒に整理することで進みたい方向がみえてくることもあります。遠慮なくご相談ください。』

 

病院を選ぶ際に、乳がん専門認定看護師さんがいて、チームで乳がん患者をバックアップする体制があるかどうかも重要なことのひとつ、という話を聞いたことがあります。

 

私たちの病院の「強み」のひとつではないでしょうか。

 

ちなみに、都立駒込病院には「意思決定支援外来」があって、駒込病院の患者でなくてもかかることができます。がん治療のことで迷っている患者やその家族が対象で、治療前、治療中、あるいは治療に行き詰った時など、心の整理がうまくできないときに相談できるところだそうです。

 

相談できる場がいろいろとあるということを知っているだけでも、心強いですね。

 

「花冷え」の季節、まだまだ気温差が大きいこの頃ですので、油断せずにお過ごしください。

 

                        

                              2024年4月1日

 

 

 

🐦 3月のコラム 「リンパ浮腫」

梅の花に続いて、河津桜や菜の花も咲き始めました。暖かな春の訪れも、あと少しですね。

先日、リンパ浮腫についてのお話を聴く機会がありました。看護師であり、リンパ浮腫療法士でもいらっしゃる山下牧子さんのお話でした。

乳がんでは、腋窩リンパ節郭清や放射線治療を行うと、リンパ浮腫になる可能性が出てくると言われています。対象となる人には、予防のためのマッサージの仕方を専門の看護師さんが指導し、日常生活の中で気をつけるとよいことが書かれたパンフレットが配布されます。

 

リンパ浮腫についておおよそはわかっているつもりでしたが、そもそもリンパ液がどのようなもので、身体をどのように巡っているのかなど、詳しいことは今回のお話でより理解することができました。

 

動脈からの血液成分が細胞の間に漏れ出てきて、その大半は静脈に戻りますが、残りの10%ほどはリンパ管に入ります。リンパ液は血液中の液体成分である血しょう、細胞で不要になった老廃物や侵入してきた細菌、ウイルスなどからできているため、山下さん曰く、「決してきれいなものではないです。」とのこと。身体中を巡る間に、手術や放射線、外傷などで障害されると輸送障害を起こしてしまう、それが発症の原因となります。

 

浮腫発症には個人差が大きいと言われていますが、データによると、やせ体型よりも脂肪が多い体型のほうが、腋窩郭清のレベルがⅠ、Ⅱ、、と高くなるに従って確率が高くなるということでした。私は、術後数ヶ月で蜂窩織炎を発症したのですが、どうやら腋窩郭清のレベルと関係がありそうだなと思いました。

 

熱いお風呂での長湯を避けたほうがいいと言われているのは、体温が上がり、血流が極端に増してしまうことでリンパ管からの回収が間に合わなくなってしまうからだそうです。「〇〇したほうがいい。」というだけでなくその理由もわかっていると、より意識しやすいなと感じました。術後年月が経つと忘れてしまいがちになりますが、リンパ浮腫については心のどこかで押さえておきたいところだとあらためて思いました。

 

私たちの病院には「リンパ浮腫外来」があります。受診には主治医の指示が必要ですので心配な時には相談してみてくださいね。

 

最後に、とてもよい予防ストレッチを教えていただきました。リスクのある人だけでなく、肩こりや、術後固まりやすいと言われている肩甲骨周りのほぐしにも効きそうだと思いました。

 

今度、よかったらおしゃべりサロンの時に一緒にやってみませんか。

 

 

                          2024年3月1日

🌸 2月のコラム 「精神腫瘍科」

 

 

暦の上では寒さがピークとなる時期を迎えました。一方で、梅の花をあちらこちらで見かけるようになり、木の枝も近づいてよく見ると、芽吹くための準備をはじめているのがわかります。

 

春は着実に近づいています。

 

ところで、私たちの病院にある「精神腫瘍科」をご存じでしょうか。がん患者や家族のために、全国に先駆けて開設された診療科ですが、意外にも知らない方が多いのではと感じています。ただ、昨今、心のケアを含めた緩和ケアの重要性がうたわれるようになってきて、この科を受診する人は年々増えているそうです。

 

がんに伴う苦痛には、身体的なものと、気持ちの面でのものとがありますが、身体の苦痛には「緩和医療科」があるのに対して、気持ちの面での苦痛に焦点を当てているのが「精神腫瘍科」です。そこには、精神科、または心療内科の医師と心理療法士さんとがいます。

 

適切なケアを行っていくことは、生活の質(QOL)の低下を防ぎ、治療の効果を上げたり、予後の改善につながったりしていく、と言われています。そのため、ここは、がん治療における全ての時期で本人や家族の心のケアにあたってくれるところとなっています。受診する際には主治医を通しての予約が必要です。

私もかつて、不眠が続き、このままいったら泥沼にはまり込んでしまうのでは、という気持ちに陥ってしまったことがありました。後になって、その当時はホルモン治療が始まった頃と重なることがわかりましたが、当時は何がどうなってしまったのかわからず、不安でいっぱいでした。精神腫瘍科を受診し、そこで、客観的な視点をいただいたことが漠然とした不安から抜け出るひとつのきっかけとなったようにも思います。 

がん専門病院だからこそある、私たちが必要な時にサポートしてもらえる場所のひとつとして、頭のすみに置いておかれてはいかがでしょうか。

 

来る春に備えつつ、寒さに気を付けてお過ごしください。

 

                           2024年2月1日

🎍 1月のコラム 「新しい年を迎えて」

おだやかな陽気の中で新しい年を迎えました。

 

みなさま、いかがお過ごしでしょうか。

 

コロナ禍で立ち上げ、まもなく3年目を迎えるメイプル ピアですが、これまでいろいろな方々に助けられ、支えられてきました。あらためて、この場で感謝の気持ちをお伝えしたいと思います。

今年も、みなさんと共に大切な時間を共有しながら、一歩一歩前へ歩んでいきたいと思っています。

どうぞよろしくお願いいたします。

 

さて、新年にあたり、私たちスタッフは「今年の抱負」や「小さな目標」を考えました。それぞれ胸の内にもっているものもあるかと思いますが、この場で公表できるものは、、、

 

🌸 体重は減らさずに、体脂肪を落としたい。

 

🌸 タモキシフェンで6kg増えた体重を戻したい。乳がん罹患後性格がネガティブになってしまったので、ポジティブな人になりたい。

 

🌸 生活のリズムをしっかりと守ることをがんばろうと思います。だらだらしたり、夜遅くまで食べたりしないように気をつけます。

 

🌸 がん治療と感染症や薬剤耐性の関係について学ぶ。学んだ知識を活かし、がん治療をする方々をはじめ、すべての方に貢献していきたい。築地のお魚や美味しいものをいっぱい食べて、お腹も心も満たされたい。

 

🌸 時代と共に、変わるものと変わらないものとを少し達観して楽しむ。

 

🌸 昨年は親の介護問題に直面して、乳がんになって感じた『今、できることがあることの幸せ』をいっそう感じるようになりました。感謝の一年にしたいです。

 

 

みなさんも、それぞれの中に、熱い思いや願いをもっていらっしゃることと思います。

 

思いや願いが叶う一年となりますように!!

 

                        2024年1月1日

 

🧦 12月のコラム 「患者・市民パネル」

先週、畑で今年最後の茄子を収穫しました。茄子は夏の野菜ですが、実は霜が降りる頃まで毎年収穫しています。今年はすでに霜が降りたのでもうないかなと思っていましたが、よく見たら小茄子サイズのものがぶらさがっているのを発見。真ん中が裂けていて、柔らかさもいまひとつでしたが、せっかく実を結んでくれたのだから、と味噌汁の具に追加しました。

 

今年も、あとひと月ですね。

 

新年を迎えると、早々に〆切を迎えるものがあります。それは、毎年国立がん研究センターが募集する「患者・市民パネル」の応募です。

 

「患者・市民パネル」とは、患者、家族、一般市民それぞれの立場から、がん対策情報センターが行うがん対策の活動に協力したり、活動の広報を行ったり、より良い活動にしていくための意見を出したりする人たちのことです。医療者と、患者・市民の間をつなぐ存在とも言えます。

 

私は、乳がんになって3年目にこの患者・市民パネルとなって、4年間、ささやかながら活動に関わることができました。

 

国立がん研究センターが発信している情報の内容に患者として参画し、自分たちの意見

が取り入れられているという実感は、やりがいにもなりました。例えば、がんの小冊子

を作成する際の査読をしたり、がん情報サービスいう情報サイトやリーフレットの作成に専門家の方々と一緒に関わったり、、、どれも貴重な経験でした。

 

乳がんになったことは、とまどいと想定外の連続でした。一時は、これからどうやっていけばよいのだろう、と人生に迷った時期もありました。そんな時に、自分の経験を生かしたり、役立てたりできる場があったことは、大きな救いのひとつになりました。

みなさんの中に、もし、この活動に興味をもたれた方がいらっしゃいましたら、一度、応募サイトをのぞいてみてください。

 

また、わからないことがあったら、いつでも、気軽に声をかけてくださいね。

 

それでは、、

 

今年も大変お世話になり、ありがとうございました。

風邪やインフルエンザが流行っていますので、お身体にはくれぐれも気をつけて年末年始をお過ごしください。

                       2023年12月1日

🐾 11月のコラム 「ちょっと、の効果」

 

先月は、金木犀の甘い匂いを胸いっぱい吸い込みながら歩くのが、散歩のひとつの楽しみでした。先日、職場の同僚が、花を摘んで作ってくれた金木犀茶を初体験、ふわっと甘い香りが口いっぱいに広がり、幸せなひと時でした。

 

そんな折しも、「ちょこっと運動に予防効果」というタイトルの新聞記事が目に入りました。『がん社会を診る』のコーナーで、毎週中川恵一さん(東京大学特任教授)が書かれている記事のひとつです。

 

世界的なガイドライン「1日30分、週5日以上」に比べて、日本では運動習慣を「1日30分以上、週2日以上を継続すること」と位置付けています。国際的に甘いこの基準でも、クリアしている日本人の割合は意外に少ないとのこと。

そのような中、シドニー大学の研究が注目されているそうです。まとまった運動習慣がなくても、「階段を1分間上る」「速足で2分間歩く」などのちょこっと運動でも効果が認められた、とのこと。1日の合計が3~4分であっても、まったくしない人に比べて身体に良い効果をもたらす(病気になりにくい)、ということがわかってきたそうです。

 

もちろん、定期的な運動がおすすめ、ということに変わりはないようですが、このようなちょこっと運動の効果も示されたということは、ちょっとうれしい話ですよね。

 

ちなみに、乳がんになってから、運動の大切さをあらためて知った私は、散歩する時にはやや大またで、を心がけています。大またで歩くのは、脚の筋力をつける(乳がんには、とくにここが大事と言われています。)だけでなく、心が弱っている時にも効果があるなぁ、というのが最近の私のうれしい発見です。

 

家の中で簡単にできることもあるので、おしゃべりサロンの時などに一緒にやってみるのもいいですね。

 

               

                   2023年11月1日

📖10月のコラム「患者さんのための乳がん診療ガイドライン2023年版」

この暑さはいつまで続くのだろう、という9月でしたね。でも、空気は少しずつ変わってきているなあ、と感じるこの頃です。指先の乾燥が気になり、今日は久しぶりに保湿クリームを塗りました。病院から処方してもらっている軟膏も、これからの季節は念入りに塗らないと、、、。

みなさんは、どのような時に『秋』を感じるでしょうか。

ところで、「患者さんのための乳がん診療ガイドライン2023年版」を、すでにご覧になった方はいらっしゃいますか。昨年の8月のコラムでご紹介した冊子の改訂版です。今回の改訂版を首を長くして待っていた私は、ページを開いてみてびっくり。以前の版に慣れてしまっていたからなのか、目次の順番をはじめとして大きく変わったと思われる中身にとまどいました。

その後、この冊子を作成するための委員会の長をされていた徳永医師のお話を伺うと、、、

治療の意思決定の際の選択肢がますます増えている中で、医師と患者、その家族が情報を共有し、ともに考え、話し合いを重ねていくこと (シェアド ディシジョン メイキング) が大切だと考えられるようになってきています。そこで、できるだけ対等な立場で話し合い、患者自身が納得のいく医療を受けるために役立つものを作りたい、と考えて検討に検討を重ねて作ったものです、とのことでした。

また、知識を得ることによって「がんになった不安」を少しでも軽減してほしい、との思いで、これまで以上に患者目線を大事にして作成されたものでもあるそうです。

治療法の目覚ましい進歩もあり、他のがん種とくらべて改訂を重ねてきた回数が多いのも乳がんならでは、ということでした。2006年に「医療者向け」とは別に「患者さん向け」のものが初めて出版されてから、なんと7版目です。

作り手の熱い思いを知って、あらためて目を通してみると、なんだか読みづらい、と感じていたことが噓のよう。とてもわかりやすく書かれた一冊に思えてきたから、不思議です。

病院では、8階のがん相談支援センターにある本棚に置かれていますので、自由に閲覧できます。また、日本乳癌学会がweb版でも公開していますので、まだの方は一度目を通してみてはいかがでしょうか。

中秋の名月は、美しい満月でしたね。

これからの季節、ゆっくりと自然を感じながら過ごしていけたらいいなあ、と思いつつ、夜の散歩を楽しんでいます。

                                       2023年10月2日

🦛 9月のコラム 「ムーミン谷の仲間たちが教えてくれたもの」

 

 

ムーミン(トーベ・ヤンソン/作)を知っている人は多くても、物語の内容まで踏み込んで読まれた人はどのくらいいるでしょうか。

 

まさに私もその一人でした。コロナで読書の時間が増えたこともあり、久しぶりに「ムーミン童話全集」を読んでみました。冒険好きのムーミンパパ、世話好きのママ、好奇心の強いムーミントロール、自由と孤独を愛する旅人スナフキン、気が強くていたずらのミー、他にも悩みを抱えた者、頑固な者など数多くのキャラクターが登場するのですが、それぞれ独特の個性を持っています。

 

物語の中に、目に見えない子ニンニの話があります。ニンニは皮肉を言われすぎて口がきけなくなり、おこることもできなくなって、ついには透明人間になってしまいます。

彼女を迎えたムーミンの家族はそれぞれのやり方で彼女と接します。ママはいたわるように接しリボンと洋服も作ってあげ、ムーミントロールは遊びを教え、ニンニがいろいろな経験をする手助けをします。そういった経験を重ねる中、思わず笑みがこぼれる楽しさを味わって少しずつ姿が戻り、もとの少女ニンニに戻るというものです。

 

誰もが決して無理をすることなく、自分自身のできることで彼女と対峙していき、ありのままを受け入れていきます。

 

北欧に根差す主体性、既成概念にとらわれることが少ない環境もこういった物語の生まれる土壌になったのかもしれません。

 

スナフキンが「たいせつなのは自分のしたいことを自分でしってるってことだよ」と語る場面があります。自分に誠実に生きているか、物語がいろいろな場面で問いかけてきました。

 

“がん”の治療を受けて命について考えたり、自分の歩んだ道を振り返ったりすることが多くなりました。小さなものをとても愛おしく感じ、道端の花にも心を奪われることが増えました。

 

病気というと、日常から切り離されたような感覚になることがありますが、日常プラス

新しい思考を加えることで小さな一歩や新しい出会いに繋がっていくような気がしています。                                        

                   

                                                                           2023年9月2日

 

                                                                                         (S. M)

🎤8月のコラム 「關本さんのご講演」

 

友人から、もうすぐ東北大震災の時の「ど根性ひまわり」の花が開きそう、との知らせが届きました。以前、彼女から10代目の種を分けてもらって以来、毎年元気に花開くのを楽しみにしていたのですが、今年はなんと種を植えた当初の水やりをおこたってしまったため発芽せず、、、友人のど根性ひまわりに望みをつないでいます。雨が降らない猛暑の中、すでに葉が枯れている部分があるとのこと、でも、ふんばっているようです。

 

ところで、先月のおしゃべりサロンは、看護部長の關本さんに「がん患者と心~緩和ケアを中心として~」と題したご講演をしていただきました。

 

がんに罹患した人の苦悩がどこから生まれるのか、告知を受けた後の心はどのように変化していくのか、そして、家族への影響は、などさまざまな視点からお話してくださいました。

 

「話し合うことの重要性」を取り上げられていたことも心に残りました。主治医とコミュニケーションをとる際のヒントとなるお話でした。普段から「記録すること」を習慣化しておくことは、コミュニケーションをスムーズにする助けになるだけでなく、病気の予防の助けにもなるとのことでした。「記録する人は、緊急入院が少ないのです。」だそうです。

 

關本さんから、「アドバンス ケア プランニング(ACP)」についてどう考えますか、と私たちに投げかけられる場面もありました。初診の時に、そのことについて考えるシートを受け取ったとしたらどうだろうか、など参加者一人一人が真剣に思いを巡らせていました。

 

後半のおしゃべりサロンにも参加してくださり、後日、とても温かいメッセージをいただきました。

 

「体験している皆さまが相互に語り合い、問題解決の糸口をつかんでいくのだろうなということ、そして、『人の役に立つ』ことを感じ、これでいいんだと思える。これこそが患者さんの会のダイナミクスと考えます。」「みなさんが当院を選び、効果や副作用という医学的な見地と、ご自分の生き方や価値観を照らし合わせ選択されていることが伝わり、とても勉強になりました。」

 

こちらこそ、大変勉強をさせていただいた感謝の1日でした。

 

暑さがまだまだ続きますので、みなさま、どうぞお身体に気を付けてお過ごしください。

 

 

                                            2023年8月1日 

  

 

☕7月のコラム 「ご縁」

 

梅雨の晴れ間の昼下がり、久しぶりに吹く風が心地よいなあと感じる日でした。

 

二人でコーヒーを飲みながら、とある打ち合わせを行いました。お相手のお名前は、水戸部ゆうこさん。近々地元で開くことにしている「大人に向けたがん教育」と題した講座でお話いただくことになっています。

肺がん治療をはじめられて5年。子育てをしながら治験を含めた様々な治療に挑みつつ、新しいお仕事を見つけられたり、市内で初となるがんサロンを立ち上げられたり、ご友人とともにケア帽子を製作されたり、、、。ほかにも、人と人とのご縁を大切にされながらたくさんの活動をなさっておられる、すごい方です。

 

昨年、水戸部さんが企画した市民講座に参加させていただいたのが、知り合うきっかけでした。

 

「原因不明のがんもあることが、世間で理解されていない。」

 

お子さんの学校の授業を通して感じたこの気づきが、水戸部さんの「がん教育」の原点、そのように感じて、ぜひ地域の集まりでお話を聞かせていただきたい、と今回の講座を計画しました。

 

実は、水戸部さんとはご縁を感じることが少なくありません。同じ病院に通い、外来の待合室も同じ、がん患者・市民パネルの先輩と後輩、そして、同じ市に住み、市のがん対策についてもやもやとしたものを感じている、、、。

 

がんを体験してから、「縁って不思議だなあ。」と感じることがたびたびありますが、この水戸部さんとの出会いもそのひとつだなあ、などと勝手に思っています。

「残された時間をどう生きるか。最後に、自分の人生が良いものだった、と言えるかどうかは自分次第だということに気づきました。」

ご著書『がんなのに しあわせ』の中の一節です。とても心に残りました。

紆余曲折を経て到達された水戸部さんの思いや強い意志を感じて、思わずひきこまれてしまう、そんな一冊です。

                                        2023年7月2日   

 

 

 

                        

👥6月のコラム 「体験者同士だからこそ」

 

 

「早く収穫しないと旬が終わってしまうよ。」

 

かぶ好きの友人に渡すべく、あわてて畑に行くと、案の定、土の中や上にぎゅうぎゅうにひしめき合っている姿が、、、。今年は収穫の時期があっという間に終わってしまいそうなので、目下、毎日がかぶずくめ、友人たちへのおすそ分けにてんてこまいです。

 

先日のオンラインおしゃべりサロンでのことです。

久しぶりに参加された方が、このように話されていました。

「はじめて参加してから、もう1年半がたつのですね。今は、自分が乳がん体験者となったのだなあ、とつくづく思いました。」

 

退院直後の方や新しい方が参加されていて、自分が以前とは逆に質問に答える立場になっていたことにびっくりした、とのことでした。いつの間にか時間が経ち、いろいろあった当時のことが過去のこととなっていたことにあらためて気づいた時間だったそうです。自分自身もそうですが、周りの人の話を聴く中で、自分のことを俯瞰でみることができることがあります。おしゃべりサロンの良さのひとつだと感じています。

 

人は、自身の内に困難を乗り越える力をもっている、、、乳がんを経験する前は、あまりピンとこない言葉でした。でも、今では自分事として、また、身近な人を通してこの言葉が時に思い浮かびます。彼女の、大きな困難を自らの力で乗り越えられた強さ、たくましさは、これからは周囲の人への励みや支えになっていくのでは、そんなことも感じました。万全とは言えない体調ながらもヨガのインストラクターをはじめるなど、新しい一歩を踏み出された彼女を心から応援したいと思いました。

 

やはり、オンラインサロンでのひとコマです。

入院を控えてとても不安になっていた方が、経験者からたくさんのアドバイスやエールをもらう場面がありました。その方は、その後、同じように悩み、不安の渦中にいる方に寄り添い、エールを送っていました。相手の不安な気持ちがよくわかるからこそ、力になりたい、と。少しでも役に立てたならうれしい、とも話されていました。

 

温かい心のリレーだなあ、と感じました。

 

私たち「乳がん経験者」とひとくくりに言っても、実はみな、それぞれです。サブタイプひとつとっても、治療法の進化によってますます細分化されつつあります。

 

でも、乳がんという、これまで経験したことのない大きな山を前に、とまどい、迷い、悩み、不安になり、もやもやとし、、、それは、私たち体験者だからこそ共感し合える、気持ちを分かち合えることだと思っています。

 

戸惑いは、経験してみないとわからない部分が大きいのです。

 

いつも、おしゃべりサロンの根底に流れている温かい空気を、これからも大切にしていきたい、と思っています。

 

                     2023年6月1日 

 

 

                            

🍃5月のコラム 「ゲノム医療」

 

 

先月は、4月とは思えない夏日がありましたね。

絹さやの実がついたと思ったら、あっという間にスナップエンドウのようになってしまう、という成長の速さにもびっくり。収穫が間に合いません。

 

そのような時、ふと思うのが、ホッキョクグマのことです。妹が以前、アラスカで動物の調査をしていたこともあり、ホッキョクグマの生息地が年々縮小していることが気になっています。氷が溶ける北極圏の温暖化は地球全体の平均の何倍にもなるためです。環境の変化を真っ先に受けているのは野生動物たちのようです。

地球環境が変わってきている一方で、医療の世界も大きく変わりつつある、と言われています。

そのひとつに、「ゲノム医療」があります。

がん細胞にどんな遺伝子変化が起こっているかを調べて治療に応用する「がんゲノム医療」は、乳がんでは、HER2遺伝子をもつ人への分子標的薬による治療があげられます。他にも、BRCA遺伝子やNTRK融合遺伝子をもつ人への治療薬なども見つかっていて、今は遺伝子の変異から治療薬を選ぶことが珍しくなくなっています。

こうした特定の遺伝子を調べる検査もありますが、複数の遺伝子を同時に調べる「オンコタイプDX検査」のような検査もあります。友人が6年前に自費でこの検査を受け、治療方針を決める判断材料としましたが、今は、いくつかの条件に当てはまる人には保険適用がされるという方向に進んでいます。おしゃべりサロンでも、この話題が出されることがあります。

また、2019年から保険適用となり、再発乳がんの人に実施が検討されることもある「がん遺伝子パネル検査」では、多くのがん遺伝子の変異を一度に調べることができます。

腫瘍内科の医長、下井先生によると、まだまだ検査で遺伝子変異が見つかっても治療薬に結び付くことが少ないという課題はあるけれど、5~10年先の未来には全ゲノム解析がますます進み、幅広く治療に応用されていく時代が来るのでは、とのことです。期待に胸がふくらみます。

今年の衣替えはいつ頃にしようかなあ、などと思いつつ、がん医療の世界に思いを馳せてみた、そんなひと時でした。

新緑のすがすがしい季節は身体や心の緊張をほぐしてくれる、ほっとひと息がつける時期です。

1日1日を味わいながら、過ごしていきたいですね。

                     2023年5月1日

🍲4月のコラム 「出会い」

 

 

メイプル ピアを通して、これまでいろいろな方との出会いがありました。

おしゃべりサロンでの出会いはもとより、メールや電話でのおしゃべりやご相談、

その他にも、診察待ちの合い間に偶然近くの席に座った方とおしゃべりしたり、おしゃべりからいつの間にかご相談を受けることになったり、といった出会いもあります。

 

以前、ホームページの「お問い合わせ」から連絡くださった方も診察待ちの時間だったらしく、すかさず返信したところ、「主治医と話す前にお聞きできてよかったです。ありがとうございました。」とのお返事が戻ってきました。こちらもうれしくなりました。こうした「一期一会の出会い」もあります。

 

先日、『折れない心を育てるいのちの授業』という本と出会いました。

 

小澤竹俊先生という方が、ホスピスに携わってこられたご経験から、今の子どもたちに伝えたいことをやさしい言葉で書かれた本です。大きな困難や苦しみと直面しても、自分の大事な「支え」に気づくと、これからを生きていく力になる、、、このことは、がんだけでなく、様々な困難に遭遇する人生においてどの年代の人にも当てはまることなのではと感じながら、温かい気持ちで読み終えました。

 

心から自分を認めてくれる誰か、とのつながりは一番の「支え」となりますが、「仲間の存在」というたくさんの「支え」への気づきも大きな意味があると感じました。

 

また、自分自身がだれかの「支え」となる時、自分を認めることができる、というくだりもありました。このことは、実は「メイプル ピア」の活動を通して感じてきたことでもあります。

 

3年前のちょうど今頃、仲間ととことん話し合い、「メイプル ピア」を立ち上げました。でも、当時は、おこがましくも、これまでいろいろな方に支えてもらった分、今度は自分が支える側になれたら、との思い一心でした。でも、1年が過ぎて、2年がたち、、、気づいたら、自分も出会った方々から、自分自身の生きていく力の源になる何か、をもらっている、そんな風に感じることがありました。

 

「支え」とは奥深いものだなあと感じます。

 

ところで、この本を知ったのは、「がん患者とその家族の目線」という講座で、私たちの病院で看護部長をされておられる関本さんのお話を聞いたのがきっかけです。緩和についてのお話がとくにわかりやすかったので、またお聞きできる機会があるとうれしいなあと思いつつ、声をかけさせていただきました。気さくに応じてくださり、大変うれしい出会いでした。

 

春は、あちらこちらで新たな息吹を感じる季節です。

 

身近なところで新しい出会いをさがしてみるのもよいかもしれませんね。

 

                           2023年4月2日

 

 

 

🐦3月のコラム 「がん相談支援センター」

絹さやのつるが、支柱をつたってのびてきました。先月積もった雪の重みに耐えられなかったのでは、と少し不安に思っていたので、元気な姿を眺めているとほっと安心、うれしくなります。

 

先日、用事があって久しぶりに病院の8階まで足を延ばしてきました。みなさんは、8階にあるがん相談支援センターをご存じですか。

 

私は、治療前からこれまで、幾度となく立ち寄らせてもらっています。治療にまつわること、セカンドオピニオンのこと、仕事のことなど、少し気になることや疑問に思うことがあると、気軽に相談に向かいます。電話で相談したこともあります。その都度、看護師さんやソーシャルワーカーの方が対応してくださり、中にはその場で解決しないこともありましたが、私にとっては気軽に立ち寄れる場所のひとつです。

 

静岡がんセンターを以前見学に行った時、1階ロビーに「よろず相談」というコーナーを見つけ、何だろうと思ったら、相談支援センターのことでした。親しみやすいネーミングだなあと思ったのを覚えていますが、私にとってはまさに、そのような場所です。

 

2018年の全国の患者体験調査によると、「がん相談支援センターについて知っている」と答えた患者、家族の割合は66.4%、そのうち「利用したことがある」という人は14.4%でした。意外と利用されていないのだなあと思いました。一方、利用した人の中で「役に立った」と感じた人が86.9%もいることから、病院側では「もっと広く知って、活用してもらいたい」との思いをもっているようです。

 

こんなささいな相談をしてもよいのかなあ?とか、秘密は守ります、とうたわれていても同じ病院だと話が伝わってしまうのではないか?などと思って躊躇してしまう人もいる、といった声を聞いたことがあります。でも、私はいち体験者として、そのような心配はご無用ですよ、とお伝えしたいです。例えば、相談する際に「ここだけの話でお願いします」と伝えれば、必ずそのように配慮してもらえます。

 

また、相談できる範囲は思っている以上に幅広いです。「不安な気持ちを聞いてもらいたい」から、「医療費や生活費のこと」「家族のこと」「介護問題」「臨床研究の情報」「〇〇はどこで相談できますか」、、、迷った場合は、まず「このようなことですが、、、」と切り出してみてはいかがでしょうか。

がん相談支援センターの宮田さんからのメッセージです。

「就労に関してはオンラインで予約と相談が可能となっております。中央病院のホームページから予約できますので、ぜひご活用ください。」

 

電話では、院内にとどまらず全国の患者さんに対応されているので、スタッフの方はこの頃は以前にも増してお忙しそうです。対面での相談では、あらかじめ予約をしておくとスムーズです。

 

                              2023年3月1日

🍲2月のコラム 「冬本番」

先月末に寒波が押し寄せて、いよいよ冬本番を迎えていますね。

先日、自転車に乗る時に耳が凍えそうだったので、イヤーパットを買い求めようとしたら、すでに出遅れてしまったようで売り切れでした。

感染症対策に加えて寒さ対策となると、ついついおっくうになり、外出は必要最小限度、閉じこもりがちな生活になってはいませんか。

以前、イギリスの湖水地方に住んでいた知人から、冬季うつ病になった話を聞いたことがあります。これは、太陽の光に当たる時間が減ることによる季節性うつ病のひとつで、北欧などの北国に住む人に多くみられるようです。

日本ではあまり聞かない話ですが、それでも、冬になると何となく元気がなくなることってありますよね。

冬場の気分の落ち込みは、寒さで活動が制限されることが主な要因となっているそうです。

そのため、家の中や外で喜びや楽しみを感じられる活動を増やすことが心の健康を守るのに役立ちます、とは大野裕先生。大野先生は、認知行動療法の日本における第一人者です。私が治療を開始してから陥った精神的不調の時期に、先生のご著書には大変お世話になりました。

がんになると、不安や抑うつを感じることが少なくありません。我慢しなければならないこともあります。1月のおしゃべりサロンは諸々考慮してオンラインとなりましたが、次回、対面でお会いできた時にはみなさんで楽しめることも計画できたらいいなあ、と思っています。

庭の片隅に、小さな水仙の花が咲いているのをみつけました。

春の訪れは、もうすぐです。

                            2023年2月1日

🍲1月のコラム 「周囲とのコミュニケーション」

穏やかな新年を迎えました。

今年もまた、メイプル ピアで出会った方々とのご縁を大切にしていきたいと思います。どうぞよろしくお願いいたします。

 

いまだコロナ禍ではありますが、1月は遠く離れた家族や友人、親戚などと挨拶を交わしたり、連絡を取り合ったり、ということが増える時期ですね。

 

久々に連絡を取り合う知人がいると、ふと頭をよぎるのが「乳がんになったことを言おうか、言うまいか。」です。

 

みなさんは、どのようにされていますか。

 

友人の一人は、職場でもご近所でも交流のある人にはとりあえずオープンに話している、と言っていました。すっきりとしていいなあと思う一方で、私はというと、そこは思い切りが悪く、いつも悩みどころです。

 

かつて読んだ本に「迷ったら、一緒に旅行に行った人には話す、などと決めておくのもよい」とあり、なるほど、と思って友人ではいちおうの目安にしています。職場では関わりのある上司、心を許せる同僚数人のみ、ご近所は交流があまりないのでゼロ、地域のボランティア活動仲間もゼロです。職場や地域でオープンにできない自分がなんだか小さく、後ろめたく感じていた時期もありました。

 

そんな時に思い出すのが、野澤先生(元アピアランス支援センター長)の言葉です。

「ウイッグをつけていたって、その人ががんなのか他の病気なのかはわからないのだから、ご近所であってもあえて『自分はがんです』などと公表する必要はないのですよ。」

 

あせらず、自分の心のままに、、、今はそう思っています。

 

周りの人たちに知ってもらうのは構わないけれど、自分から話すのは、、、という場合には、信頼できる友だったり、自分の子どもだったりにスポークスマンを任命する、というお話を聞いて、それも一案だなあと思いました。このお話をしてくださったのは、看護部長の関本翌子さんです。

 

また、「がん情報サービス」の中に、先日(12月21日)「周りの人に病気のことを伝える」というページが掲載されました。そこに書かれている内容も参考になります。たとえば、『どんなことを伝えるか考えましょう』の項目には、伝えることと伝えないことを事前に整理しておく、質問されそうなことへの答えを考えておく、これまでと同じように役割を担うことが難しくなる場合に、協力してもらいたいことを書き出しておく、、、などが書かれています。

 

がん情報サービスへのリンクは、パソコンでメイプル ピアのホームページを開くと一番上に出てきますので、そちらからもご覧いただけます。

 

おしゃべりサロンでこの話題が出たことはなかったので、今年は一度話題にしてみようかしら、などと思っています。

今日の天気のように、穏やかな1年となりますように。

                            2023年1月2日

🌔12月のコラム 「迷い」

 

 

先月の皆既月食の晩は、空を見上げながら無心に月を眺めるというひと時を過ごした方も多かったのではないでしょうか。

 

気持ちが塞いでいる時には月や星、太陽などを見るために顔を上げて空を見ることはまずしない行為です、とヨガの先生。あらためて、空を眺めることのできる幸せを感じました。

 

ところで、最近のメイプル ピアへのお問い合わせでは、治療の選択で悩んでいるという方が何人かいらっしゃいました。

 

乳がんと診断される人が増える一方で、がん治療の研究が進んで新たな治療薬が見つかったり、新しい治療法の効果が見出されたり、という昨今です。以前は選択肢が少ないと言われていたサブタイプでも、再発・転移した乳がんでも治療の可能性が広がってきたことは、乳がん患者として大変ありがたいことです。

 

しかし、一方で、何を選んだらよいのかと迷い、悩む方が以前よりも増えているように感じています。

 

身体への負担、仕事や他の活動への影響、アピアランスの問題、費用のこと、家族のこと、こころの問題、、、などなど。考えることは山ほどあります。もちろん、正しい情報を得て、自分自身と向き合い、最善と思われる道を見つけることが大事、と頭ではわかっていても、実際には、情報の入手の仕方で手間取ったり、何を、どのような手順で考えていったらよいのかと迷う気持ちが焦りとなったりして冷静に考えることが難しい、そんなこともあるのではと思います。

 

がんと宣告されてから2週間くらいの間が一番気持ちが落ち込んだり、ストレスにさらされたりする、というデータがあるようです。そのような時期には主治医からの話もなかなか頭に入っていきませんよね。

 

質問したいことをあらかじめメモ書きにして臨みましょう、とはよく言われる話です。ただ、私は、いざ診察室に入り、主治医の先生から想定と違った話を切り出されたりすると、もうそれだけで頭が混乱し、自分の思いを伝えたり、用意していった質問をしたり、といったことができずに終わってしまった、という苦い経験もあります。

 

そのような時に頼ったのが、外来にいらっしゃる看護師さんでした。診察室に入る前に、質問事項を一緒に確認していただいたこと、一人で診察室に入るのが不安な時に一緒に入っていただいたこと、診察室から出た後のフォローをしていただいたこと、、、などなど、本当に言葉では言い尽くせないほどお世話になりました。

 

コロナ禍の中で始まった乳がん認定看護師さんによる看護外来も、時間を確保してじっくりと向き合ってくださるのでとてもよい制度だと思います。よかったら活用してみてください。

 

他にも、相談支援センター、アピアランス支援センター、セカンドオピニオン、そして、患者会での体験者の話、、、いろいろな場を活用して、人生の大切な決断をしていって欲しいと思います。

 

「重要な面談にのぞまれる患者さんとご家族へ~聞きたいことをきちんと聞くために~」というパンフレットの活用もお勧めです。他病院に通う友人からも絶賛される一冊です。以前は相談支援センターの棚に置かれていましたが、もしなければネットからも閲覧、印刷できます。

 

もちろん、私たち、メイプル ピアの仲間も、みんな応援しています。

 

                      2022年12月1日

🌰11月のコラム「通院日」

 

ウオーキングをするのに気持ちのいい季節です。

 

ウオーキングで最近知ったポイント、それは、お腹と服との間に指が一本入るように意識すること。お腹を少し凹ませる感じをキープしたまま歩くことは、有酸素運動とともに筋トレにもなるそうです。

 

以前のコラムでもお話しましたが、適度な運動により筋肉を鍛えることは、乳がん患者の予後を改善し、延命にも効果があると言われています。日頃から取り入れたい習慣ですね。(術後や治療中の方は決して無理をしないでください。)

 

ところで、先日は通院日でした。

 

メイプル ピアで知り合い時々電話でおしゃべりしている方が、最近ウイッグのことで悩んでいらしたのを思い出して、アピアランス支援センターに寄ってみました。

 

部屋は、以前と変わりないように感じましたが、対応してくださったスタッフの方ははじめてお目にかかった方で、話してくださった情報には新鮮なものがいくつもありました。

 

ウイッグの多くはゴムが伸びるので、頭の大きさに関係なく使えること、治療にお金がかかり予算をかけられない人のために、使わないウイッグを提供してくださる団体があること、そして、何より驚いたのは、頭のしめつけ感で辛くなるのはウイッグのせいというよりも、その下につけているネットの問題であることがほとんど、とのこと。まさに、目からウロコでした。

 

対応策もいろいろとあるとのこと、これからの方は、ぜひ対策を講じて、少しでもストレスの少ない生活を送ってほしいと思いました。

 

さて、呼び出し音が鳴って、診察室へ。

 

お世話になっている神保先生にお会いしました。

 

思えば、神保先生にお会いして間もない頃、まだお互いのことがよくわからない時に、自分のことをどう伝えたらよいか悩んだ挙げ句、夫に先生役になってもらい、試行錯誤を重ねて診察室に臨んだことがありました。しばらくの間話に耳を傾けておられた先生は、ふいに顔をあげて、たったひと言、「なるほどね。」 ― その瞬間、「わかっていただけたんだ。」という思いが一気にこみあげてきました。

 

その後乗った電車の中ではふらふら、とうとう午後からの仕事をお休みしてしまったエピソードは、今では夫婦の間の笑い話です。

 

その時の、「なるほどね。」という言葉は、短くても温かみのある言葉として時々思い出します。そして、どうもこの頃から私の患者力修行が始まっているような気もしてなりません。(以前のコラム「患者力って?」(2022年4月)や、「患者とドクター」(2021年5月)もよろしかったらお読みください。)

 

先生とのお付き合いも長くなり、今では気軽に話せて、頼れる主治医の先生です。
 

「病気を自分自身の事としてしっかりと向き合っていく事が大切だと思います。

治療の決定は最終的には自分で責任を持たなくてはいけません。そして、治療の正解は人それぞれで必ずしも1つとは限りません。自分の人生観・死生観も大切に主治医と話し合って納得して治療を受けて頂きたいですね。」

 

患者として心がけてほしいことは何かありますか?との問いかけに、メッセージを送ってくださいました。そして、さらに、

 

「患者同士でつながり、医療情報を交換することはとても有益なことです。応援しているので、がんばってください。」

メイプル ピアにエールを送ってくださいました。

 

うれしい気持ちで診察室をあとにしました。

          

                             2022年11月2日

 

 

 

🍄10月のコラム「がんとお金の講演会に参加して」

 

9月は台風が多い月でしたね。

 

先日のおしゃべりサロンはその心配もありましたが、当日は、晴れ女が幾人もいるのかしら、と思うほどの久々の秋晴れに恵まれました。かくいう私も、山に登りに出かけるたびに、前日の悪天候が打って変わり快天に恵まれてきたので、自称晴れ女です。

 

ところで、先月半ばの日経の一面で「親の介護費、資産踏まえて」という記事が目に留まりました。そして、そこにファイナンシャルプランナーの黒田尚子氏というお名前をみつけ、思わず「あっ。」と声に出してしまいました。

 

なんと、少し前に参加した「がんとマネープラン」という講演会の講師の先生のお名前ではありませんか。講師の黒田先生はご自身の乳がんの体験から、がんなどの病気に対する備えの重要性を訴える活動もされていて、聖路加国際病院のがん経験者向けプロジェクト「おさいふリング」にも関わっておられる方です。

 

お話の中で、いくつか印象に残ったことは、といいますと、、。

 

「見通しをもつこと」は、まず一番はじめに考える大事なことです、とのことでした。がんにかかるお金を「病院に支払う医療費」「病院に支払うその他のお金」「病院以外に支払うお金」の3つに分けて、年間の治療費の見通しを立てることから始めるとよいそうです。その際、「かけるべき費用」と「かけたほうがいい費用」とを区別することがポイントになるとのことでした。そうすることで、金銭的負担が重くのしかからないための対策が立てやすくなる、と。なるほど、と思いました。

 

「公的制度はセルフサービス」・・・この言葉は、なんだか合言葉のようで笑ってしまいました。自分自身は勤務先で対応してもらえたのであまり意識していませんでしたが、たしかに自分から申請しないともらえない制度が多くあるなあ、と思いました。正しい知識をもっていることがいかに大事か、となるので、相談支援センターや自治体、ネット、患者会などから情報を集めることから始めるとよいとのことです。また、相談先で正しい情報が常に得られるとは限らないので、相談先は複数もっておく、というのも重要なポイントになるとのお話でした。

 

ほかにも、対策は「応急手当」→「予防」というお話や、がん罹患後の就労と収入のイメージなど、勉強になることがたくさんでした。参加者のお一人が、「これほどまとまったがんとお金にまつわるお話を聞けたのは、はじめてです。」とおっしゃったのがよくわかりました。

 

コロナ禍では、非正規雇用の人の離職率が多くなっています。MSW(メディカルソーシャルワーカー)さんを頼りつつ、がん治療を賢く乗り切っていきたいものです。

 

                           2022年10月2日

 

🌺9月のコラム「アピアランスケア」

 

 

暑さの中にも少しずつ秋の訪れを感じるようになってきました。時折吹く風の感じ、散歩中に聞こえてくる虫の鳴き声、空の高さ、、、。吹き荒れたコロナの風も少しずつおさまってくれるといいなあと思わずにはいられません。

 

前回のオンラインでのおしゃべりサロンで、こんなひとこまがありました。

治療を終えて髪が生えてきたのはいいけど、前の髪と全く違っていて密度もまばらで困っている、というお話に、かわいらしい帽子がたくさん手に入るので、その時期は帽子を愛用しました、という声、頭頂部の毛が生えそろわないので部分ウィッグをつけて仕事に行っています、という声、、、。

私は、当時、治療に入る前に1階のアピアランスセンターで、安いウィッグを7つ購入して日替わりで外に出かけていた人が、ご近所さんから「おしゃれな方ね。」と思われて、まさか脱毛中だとはだれにも気づかれなかった、というお話を聞いたことを思い出しました。自分自身もフルウィッグの他に、帽子と一緒にかぶるもの、髪が生えてきてからは頭頂部に載せる部分ウィッグ、などと季節によって、プライベートの時や仕事の時など場面によって使い分けてきたという話をしました。それぞれが数千円で手に入りやすいものでしたよ、と言ってお見せしながらおしゃべりできたのは、まさにオンラインならではの良さですね。

 

こうしたアピアランスケアはがん患者にとって大事なことのひとつと言われています。

もちろん、私たちがん患者にとっては治療が最優先ではありますが、アピアランスケアという考えは、心理面でのサポートの意義が大きく、治療中や治療後の生活の質(QOL)にも寄与する、と言われて久しいです。

 

最初にその考えを広めていかれた方は、今、目白大学看護学部で教鞭をとっていらっしゃる野澤桂子先生です。2013年に私たちの病院でアピアランス支援センターを創設され、ここは日本のがん治療におけるアピアランスケアの先駆けとなりました。

 

偶然にも、先月の日経新聞の医療・健康欄で4回シリーズの先生の記事を拝見し、その中で、がんになっても生きやすい社会をつくろうという意識は、医療現場だけでなく社会のさまざまな分野を変えてきた、ということを知りました。

 

免許更新時に写真を撮るとき、医療上の理由があれば帽子やウイッグの使用が可能となったのもそのひとつ。2018年の道路交通法の改正からということなので、意外にも最近のことですね。

記事の最後で、外見の症状を隠さなくても生きやすい世の中であればよい、という考えのもと、心理社会的な側面も含めたアピアランスケアを広めていきたい、と力強く書い

ておられた野澤先生がまぶしく感じました。

 

1階のアピアランス支援センターをまだのぞいたことがない方は、ぜひ一度立ち寄ってみてください。外見上の悩みだけでなく、人生相談にも乗っていただいた、私にとってはよろず相談の場所でもあります。

 

季節の変わり目は、夏の疲れが出る頃です。体調管理に気を付けてお過ごしください。

                                                         

                                                                                     2022年9月1日

 

🐋8月のコラム「乳がん診療ガイドライン」

 

 

3年ぶりの行動制限のない夏は、コロナ感染拡大のニュースとともにはじまりました。その最中、先日のおしゃべりサロンは健康を守ることを第一に考えて、オンラインで行うことに切り替えました。

 

乳がん治療は、ただでさえ予期せぬトラブルに見舞われたり、生活の質(QOL)が下がったり、経済面を含めた様々な先の見えない不安にさらされたり、などとストレスを抱えることが多いです。そこに加えて、感染症の広がりです。オンラインであっても、同じ患者同士、気兼ねなくたまっているものを吐き出し、思いを分かち合える場はかけがえのないものだなあ、とつくづく感じたひと時でした。

 

ところで、みなさんは「乳がん診療ガイドライン」はご存じですか。

 

医療者向けと患者向けとがあり、どちらも日本乳癌学会が編集を行っています。そのうち、私達に身近なものは「患者さんのための乳がん診療ガイドライン」ですが、これは名前のとおり標準的な診療の道標であるとともに、治療中困った時に考えるヒントがたくさん詰め込まれたものです。

 

私も、時々目を通して確認することがあり、心強い一冊だと思っています。今の最新のものは2019年度版ですが、来年改定版が出されるため、近年新しく加わった、また変更された内容が盛り込まれるのを楽しみに待っているところです。

 

今年の乳癌学会で、この本が話題の一つに取り上げられました。登壇された徳永医師は作成委員でもいらっしゃいますが、「医師と患者が双方に治療方針決定にかかわる時に有効なツールでもあるので、ぜひ活用してほしい。」と話されていました。

 

また、「推奨されている診療行為が一番とは限りません。病気の状態、身体の状態、家庭環境、人生観などみな違う。ともに情報を共有し、『ああでもない、こうでもない。』と様々な選択肢の中から話し合うことを通して、ともに納得した道を見つけていくこと、これこそが患者さん一人一人にとってのガイドラインだと思います。」

この言葉はとくに心に響きました。

 

4月のコラム「患者力って」にも通じるものだなあと思いました。書籍でなくても電子版でも見ることができますので、このコロナ禍でできることのひとつと思って、まだの方は一度目を通してみてくださいね。

 

ちなみに、医療者向けのものには「推奨レベル」が載せられていますが、今回の改訂では推奨についての投票結果が開示される、というところも目玉の一つだそうです。医療者向けのものは今年発刊されるので、こちらもよかったら・・・。

 

熱中症とコロナ対策の両立は難しいなあと感じる毎日ですが、みなさまもどうぞ十分に気を付けてお過ごしください。

 

                           2022年月8月1日

🌽7月のコラム「日本乳癌学会学術総会」

あじさいの花の瑞々しく咲いていた時期がはるか遠く感じられるほど、ひたすら暑い日が続いていますね。

 

いかがお過ごしでしょうか。

 

この暑さで畑のナスやシシトウ、インゲンが急激に大きくなりすぎて食べきれないため、知人に送って手伝ってもらうことにしました。今年は野菜につく虫の発生も、予測がつきません。畑にいると、自分の身体のことだけでなく、気候変動をもたらしている地球環境のことも考えていかなくてはならない、そんな時代に生きているということを、あらためて感じさせられます。

 

先日、乳がん学会が横浜で開かれました。その一部、市民・患者向けに組まれたプログラムに参加してきました。

薬物療法の話では、ますます個別化、そして乳がん診療を取り巻く環境が複雑化してきていることがよくわかりました。そして、次々と承認を待っている新薬の話、薬のより効果的な用いられ方の話、新しく加わるかもしれないサブタイプの話など、うれしい情報がたくさん聞けました。

 

ホルモン療法による不眠症状については現在研究の対象となっているとのこと、自分自身もやもやとしていたことだったので、研究の成果が待ち遠しいと思いました。

 

参加者のお一人からの「再発して治療を受けていますが、新薬の値段の高さが苦しくて、、、」との声には、「こうした悩みについては、ドクターやソーシャルワーカーの人とよく話し合ってみてほしい。」とのお答えとともに、ハーセプチンやアバスチンなどのように、薬剤の価格をおさえて多くの人に使ってもらえるようにするための研究を進めている機関がある、とのお話がありました。心強く思いました。

 

ご講演されたがん研有明病院の尾崎医師の「リスクとベネフィットを考えながら、正しい情報をもとに患者と医療者とがともに悩んでいくことがますます重要」とのお話が胸にひびきました。

 

他にもいろいろとありましたが、書ききれないので、続きはおしゃべりサロンの時にでも聞いてくださいね。

 

講演にあった診療ガイドラインについてのお話は、次回のコラムでお伝えしたいと思います。

まだまだ続くと思われる暑さです。外気の暑さのみならず、外と内の気温差にも注意しながら、くれぐれも無理のないようにお過ごしください。

                               2022年7月2日

 

 

 

 

🐌6月のコラム「がんばりすぎないこと」

 

あじさいの花が咲き始めました。梅雨入りも近いようです。

みなさま、体調はいかがでしょうか。

私は乳がんになって、心に決めたことがありました。

それは「がんばりすぎないこと」です。

 

同じ乳がんサバイバーのヨガの先生に言われた言葉にハッとしたことがありました。乳がんになる人は「真面目ながんばり屋が多い」と。(昨年4月のコラムに掲載)

 

言われてみると、かつての自分は仕事にプライベートに全力投球、と言えば聞こえはいいですが、やることを抱えすぎて自分の力量をとっくに超えていたにもかかわらず、あれもこれもと突き進んでいた、と振り返ってみて思います。

 

お世話になった方が年賀状に「大手術をしました」と書かれていたのを見落としてしまっていたこと、山で道に迷い続けながら頂を目指していた時、一緒に登った友人の「引き返そう。」のひと言で最悪の事態から逃れられたこと、など、思い起こせば「あと少し、あと少し。」とがんばり続けることで、本当に大切なことを見過ごしてしまったり、冷静な判断力が働かなくなってしまったりしてきたことがたくさんありました。

「がんばること」はもちろん必要な時もありますが、「がんばりすぎること」は、時に、独りよがりで視野を狭くしてしまうことだってある、と今さらながら気づかされました。

 

病気も命も自分のがんばりだけではコントロールできない、という事実に気づかされたことは、これまでの価値観を手放して、新しい考え方をもちたいと思うきっかけになりました。

 

命へのいとおしさが増してきた分、自分自身も、周囲も大事にしながら生きていくためには、「自分ががんばらないとどうにもならないこと。」を見極めて優先順位を考えたり、時には人に助けてもらったり、そんな風にしていけたらと思うようになりました。

 

今、気になっていることがあります。感染症の蔓延、世界の中で続く紛争、の世の中で多くの人がストレスを抱え、心に余裕をなくしています。医療スタッフの方々は今でも限界に近い状況の中におられる。そのような中でがんに罹患した方々は、自分だけではないのだからと我慢しすぎてしまったり、本音を吐き出せずにがんばりすぎてしまったりしていないだろうか、ということです。

 

「緩和ケア医ががんになって」の著者、大橋洋平さんはご著書の中で「患者風をふかせる」と表現されていますが、我慢せずにもっと弱音を吐いていい、心に蓋をせずに思いを表現していいのです。手を差し伸べてくれる人や話を聴いてくれる人は必ずいます。そして、そうすることで見えてくるものがある、私はそう思っています。

 

私達の病院には「精神腫瘍科」や「緩和医療科」、「看護相談」があります。薬剤師さん、栄養士さんなどの医療スタッフや相談支援センターもあります。いろいろな場、人が支えてくれます。患者同士がつながれる場も、よかったら考えてみてください。

 

「がんばりすぎないこと」―私の生来の性分から時々難しいと感じることもありますが、その時は家族や友人たちの力を借りながら、やっていきたいと思うこの頃です。

                            2022年6月1日

 

🎏5月のコラム「1年が過ぎて」

メイプル ピアを立ち上げて1年と少したちました。

 

乳がんを乗り越えていくうえで、乳がんと共に生きていくうえで、一緒に歩む仲間がいるのといないのとでは大きく違う、と感じている私たちです。自分たちも仲間に支えられてきたから、今度は支える側にもなれたら、との思い一心で立ち上げました。しかし、当初は想像もつかなかった困難の連続でした。

それでも地道に一歩一歩歩みをつづける中で、私たちの予想を超えてコロナ禍、孤独に乳がんと向き合い、仲間と交流する場を必要としている人たちと出会いました。

 

「長いこと一人で孤独に治療を続けてきました。ようやく一歩抜け出すことができたように思います。」

「乳がんになってから、初めて笑いました。」

「一人で思い悩んでいるよりも、世界が広がった気がします。」

「今の治療がつらいのでやめようと思っていたけど、みなさんの話を聞いているうちに、じゃあどう対処したらよいのかと考えて付き合っていく発想に変わりました。」

「同じ仲間から元気をもらいました。」

 

おしゃべりサロンを運営したり、個人的にお話したりしていく中で、このような言葉に出会うと私たち自身もうれしく、心から立ち上げてよかった、と思います。人と人とがつながることで得られる力ってすごいなあ、とあらためて感じています。

 

「参加したい時に気軽に参加できるサロン」を模索してきた1年間でしたが、今の段階での無理のないやり方をみつけることもできました。おしゃべりサロンを、コロナの感染状況にもよりますが、できるだけオンラインと対面とを月ごとに交互に行っていく、というやり方です。オンラインだからこそつながれた、という方もいるし、できるだけ直接会いたい、という方もいます。ご事情やご都合に合わせて、気楽な気持ちで参加していただきたいと思っています。

 

また、私たちと同じ病院に通う患者の会「12Bネット」さんが作ってくださった患者会ファイルに「メイプル ピア」の紹介を載せていただきました。今月から1階ロビーの棚などに置かれています。

 

メイプル ピアを個人的に応援してくださっている病院スタッフの方々、先生、看護師さん、異なるがん種の仲間、、つくづくありがたいなあと感じています。必要としている同じ乳がん患者の方に一人でも多く私たちの思いが届きますように、と願いながら、これからも活動を進めていきたいと思います。

 

そして、おしゃべりサロンに毎回参加してくれていたN.Wさんに新たにスタッフに加わっていただきました。心強い仲間です。ホームページの「スタッフの紹介」の欄に自己紹介を載せていますので、一度ご覧いただけますとうれしいです。

活動の中で出会う方々との関わりによって、これからも成長していく「メイプル ピア」を、今後ともよろしくお願いいたします。

 

                             2022年5月1日

 

 

🌷4月のコラム 「患者力って?」

先日のおしゃべりサロンでは、カフェでおしゃべりした後で浜離宮の散策を楽しみました。ちょうど桜と菜の花が見頃を迎えていて、思わず「きれい!」という声や、「あっ東京タワーが見える。」という感嘆の声。(すみません、後で調べたらやはり東京タワーでした)

 

お一人の方の「自然の美しさに感動する気持ちをこの1年あまり忘れていました。」とのお声にはぐっとくるものがありました。

 

今回うれしかったことで、「メイプル ピアだより」を半年以上読んでくださっていた方が初めて参加された、ということもありました。メイプル ピアだよりを読みながら対面での開催の機会を伺っておられた様子。うれしいつながりです。

ところで、「患者力」という言葉を一度は耳にしたことがあると思います。

「患者力を身につけましょう」などと言われていますが、実際に「患者力って何?」と思ったことはありませんか。

 

みなさんは、この言葉からどのようなことを想像しますか。

 

医療者におまかせではなく、自分でも正しい情報からある程度の知識を身につけて、取捨選択ができること。自分の価値観を整理しておき、治療を含めた物事の優先順位がつけられること。― などと言われていますが、要するに、受け身一方ではなく、自分もチーム医療の一員である、というような意識をもって主体的に病気と向き合っていくことを指しているのでは、と思っています。

 

医療界が変わってきていると言われている昨今です。今は、医師を目指す方々は患者とのコミュニケーションの取り方を学ばなければいけない時代です。一方的に治療方針を伝えるのではなく、患者の希望や事情を聞いた上で両者の合意のもとに方向性を見出していく、このスタイルが当たり前となってきつつあります。

 

そうなると、ますます患者であっても「先生にお任せします」ではなく、自分自身でも病気のことや何に価値を見出して生きていくのか、というようなことを考えることが必要になってくるように思います。そこでは、自分自身を客観視できる力もあるとよりよいかもしれません。

 

そうは言っても、私たちがん患者は告知を受けた瞬間から頭は真っ白になってしまい、主治医の話ひとつとっても全く耳に入らない、という状態になってしまいがちです。かくいう私も、かつては患者力のない人間だったと思います。でも、信頼できる看護師さんをはじめとした医療スタッフの方々、家族や友人、同病の仲間たちなど周囲の人達の助けを得て少しずつ身につけてきた、そんなように思います。

 

実際に、「患者力」がついてくると、医師などの医療者の方々に病気の専門家としての敬意を払いつつも、自分の思いを伝えたり、知りたいことをしっかりと質問したりできるようになります。一方で、それがないと、例えば、治療の副作用の発見が遅れてしまう、などということにもなりかねません。

 

おしゃべりサロンに参加している間に、気づいたら前よりも「患者力」がついてきたのかな、とみなさんが思えるようになったらいいなあ、と思います。

 

コロナ禍での3度目の春です。

ウイルスに対する守りを怠らない、少し不自由な日常がこれからも続くと思われます。

お互いに無理をしない生活を心がけていきたいですね。
 

                              2022年4月1日

 

🌺 3月のコラム 「呼吸」

 

みなさんは、呼吸って意識したことがありますか。

 

たとえば、コロナ禍でマスクを長時間していると、頭痛やめまいがしてくることはありませんか。

 

これはどうも「マスク頭痛」というものだそうです。マスクの中の二酸化炭素ばかりを吸い込んでしまうことが原因のようです。マスクをはずして深呼吸をしているうちに改善してくるので、肺に酸素を十分に取り入れることがいかに大切なものなのかがわかります。

 

私は抗がん剤治療の最中、夏の暑い日に外に出ると、まるで水槽の中の金魚が水面に浮かんで口をパクパクとさせているような、まさに自分がその状況になったような錯覚に陥ったことがあります。一言で言うと、酸素がうまく吸えずに苦しい状況。どうしてそのようなことになったのかよくわからなかったのですが、後になって、副作用で心臓の機能が低下していたことがわかったので、その影響で、血液が十分に送られずに肺の機能も低下してしまっていたのかもしれないと思いました。

 

その症状は夏を過ぎると治ったので、猛暑ということも関係していたかもしれません。

 

また、放射線治療では、気が付いたら放射線肺臓炎を発症していて、病院に駆け込んだ時には重症化する一歩手前でした。でも、パルスオキシメーターの酸素値が今一つ下がらず酸素吸入器を貸してもらえなかったので、個人的に手に入れるにはどうしたらよいのかと看護師さんに真剣に相談したくらいでした。

 

普通に息が吸えることって、ただそれだけでとてもありがたいことなんだとどちらもその時はつくづくと感じたのですが、、、それも一時のこと、そのありがたさを忘れて生活してしまっている私です。

 

月1回お世話になっているヨガでは、このところ呼吸法に重点が置かれています。先生は、以前にもお伝えしたこの病院の同じがんの先輩です。

 

がんに嫌われる体質になりましょう、と体内に酸素を取り入れる呼吸法を紹介してくださっています。

 

先生曰く、吐くことで身体の力が緩むし、吸うことは意識しなくても自然にできることなので、吐くことだけを意識していくように、と。

 

よく緊張してしまうタイプの私は、身体が常に凝り固まっています。これまでも、いろいろな場面で「息してる?」と周囲に言われてきたため、どうも緊張したり、根をつめたりした時に息を止める癖がついてしまっているようなのです。なんとかひとつでも呼吸法をマスターして普段から無意識レベルでできるようになりたいなあ、と思いながら毎回臨んでいます。

 

春の訪れがあちらこちらで見られます。もうすでに、水仙や梅の香りなどからひと足早く春を感じた方もいらっしゃることでしょう。これからの季節は香を楽しめる季節でもありますね。

 

花の香に触れる時に、普段は忘れてしまっている身体の機能のひとつ「呼吸」を思い出してみませんか。

 

                                2022年3月1日

 

🐤 2月のコラム 「治療の進歩」

 

1月1日に、水戸の偕楽園で開花した梅の花の写メを送ってくれた友人がいました。

「え、もう梅の花?」とびっくりしたところ、とくに早く咲く八重咲きの花だったようです。

 

今月は、いよいよ本格的な梅の季節到来ですね。

年を重ねるごとに、梅の魅力のとりことなってきているので、春を先取りしてくれる梅の花の開花が楽しみです。

最近、乳がん治療についての講義に参加する機会がありました。

 

亀田総合病院乳腺科の角田ゆう子先生のお話でした。

 

はじめに、先生の病院での乳腺疾患の診断の進め方についての詳しい説明がありました。なるほど、そういう風に細かく枝分かれしていきながら診断が進んでいくんだ、と納得でき、大変わかりやすかったです。これまで乳がん、と診断されるまでのいきさつについてはとくに疑問はありませんでしたが、今一度診察の時に主治医に伺って確認してみたいと思いました。

 

治療の話では、非浸潤性の小葉がんの場合、ほとんどが手術の対象外となり経過観察となったことが最近変わったことだということを知りました。

 

また、ラジオ波を使った治療法の話が出たので、昨年、同じ病院に通う友人が主治医から提案されたという話を思い出しました。あらためて国立がん研究センター中央病院のホームページで確認し、そこで、今現在は「患者申出療養制度…※」の対象となっている治療法だということを知りました。

 

他にも、BRCA1/2遺伝子検査の保険適用基準、がん遺伝子パネル検査のこと、昨年末に保険適用となったオンコタイプDX乳がん再発スコアプログラムのお話があり、知ってはいましたが、わかりやすい説明でより詳しく理解することができました。

 

乳がん治療については、このところ毎年のように新しい治療薬が承認されたり、薬の適用のされ方が拡大されたりしてきています。手術の方法も再建の手術を含めて変わってきているようです。自分の治療が始まった6年前と比べて、ますます、より効果が期待できる薬、より患者にとって負担の少ない治療を選ぶことができる可能性が広がってきているのだなあ、と感じていましたが、今回、そのことをあらためて感じた1時間でした。

恥ずかしながら、私自身は乳がんがわかった当初、もうすでになってしまったのだから今から病気のことを勉強しても仕方がないという思い込みで、1年以上本やネットで調べることを避けていました。当時、芸能人のブログなどで乳がんのことが話題となっていたため、余計知りたくない、という気持ちになってしまっていたように思います。同じ病室で知り合った方のお誘いで、講演会だけは一度足を運びましたが、、、。今思うと、現実を受け入れられていなかったのかもしれません。

 

でも、昨今の乳がん治療の進歩を知れば知るほど、今ではうかうかしてはいられないなあ、という意識に変わってきました。

 

乳がん患者はよく勉強している、と言われることがありますが、これだけ進歩してきている乳がん治療、新しい情報にアンテナを張りつつ、お互いに情報交換しながらよい選択をしていきたいですね。

                               2022年2月1日

 

 

※未承認薬などをいちはやく使いたい。対象外になっているけれど治験を受けたい。などの要望に応えるためにつくられた制度。

🎍1月のコラム 「食の話」

おだやかな新年を迎えました。みなさま、いかがお過ごしでしょうか。

 

今回は、食の話です。

私はがんになったとわかってからかなり食事にこだわってきました。大豆食品を積極的に食べることは再発リスクを下げる可能性があると聞いていますが、その他の食品に関してはいまだ乳がんとの関係は明らかではないようです。でも、そもそも食事との関連に関する研究が少ないのでは、と考え、私はまずは自分の身体を作ってくれる食事から改善していこうと思いました。

それまでの早食い、食べ過ぎを反省したことから始まり、畑で育てるようになった野菜を取り入れ、朝は野菜ジュース、夜は干し野菜からとっただしで作った和食をベースにしました。調味料や国産の有機野菜にできるだけこだわり、味付けは控えめにし、赤身肉をやめ、酵素玄米ご飯に青魚、そして、牛乳をやめて豆乳へ、、、。家族が買ってきた「〇〇先生おすすめのがんが消える食事」「がんに効く食事療法」といった本をバイブルとし、私以上に徹底していた友人からの情報を頼りにしながら邁進していきました。

 

考え方がめったに合わない夫と、なぜか食に関しては一致団結したので、それも後押ししてくれたように思います。

 

お寺で行われた薬膳料理の会に参加した時には、季節の食材を生かした味付けや、医食同源の考え方に学ぶことがたくさんでした。今でも、興味深い分野のひとつです。

そんなことを続けているうちに、だんだんと味覚が変化してきたのを感じました。大地の養分を吸収して育った野菜から生まれる優しい味わい、自然の甘さが、心にも身体にも何ともいえない心地よさをもたらしてくれました。これまで〇十年間食べ続け、作りあげてきた身体のデトックスができたようにも感じました。

 

ただ、一方で、食べたいものを自由に食べることができない、やりたいことに時間がさけないといった不自由感は徐々にストレスとなっていきました。ある意味、生活が食に支配されていくようでした。体重とともに体力も落ちてきたように感じていました。体重と骨密度は関係しているので、ホルモン治療中の身としてはあまり減らしたくなかったですし、体力は仕事をする上でもつけたいところでした。実際に、仕事を再開し、食にこだわっていく余裕がなくなってきました。

 

そして、6年たった今は、、、旬の恵みを美味しく、バランスよくいただくこと、納豆、味噌などの大豆発酵食品やアブラナ科の野菜を積極的に食べること、乳製品を控えめにすること、これが今の私のこだわりです。アブラナ科の野菜は、かつて私達の病院の乳腺外科にいらして、今は静岡がんセンターの緩和医療科で参与となられておられる安達勇先生に食事の相談にのっていただいた際に、発癌抑制効果の高い野菜としてすすめていただきました。

 

「〇〇はだめ」「〇〇でなければ」という発想から「できれば〇〇がいい」「〇〇が心地よい」

という発想に変え、気持ちもだいぶ楽になりました。今では、身体の声に耳を傾けていくことこそ、心と身体にとって一番よいことなのでは、と思うようになりました。そのためにも、適度な量は心がけたいところです。食べ過ぎは感覚が麻痺してしまい、身体本来の声が聞こえにくくなってしまうように思うので。

 

いざという時には、友人が教えてくれた「断食」がある!とひそかに思っています。

 

食についてはあくまでも私自身の考えですので、みなさんお一人お一人がご自分の身体の声に耳を傾けていかれることをお勧めします。

                                    

                             2022年1月2日

 

🧣12月のコラム「おしゃべりサロン それぞれの良さ」

先月末は、はじめて直接お会いしてのおしゃべりサロンを開くことができました。

天気の良い休日の昼下がり、築地の、とあるカフェで。

店主さんこだわりのコーヒーと焼き菓子が美味しいお店です。

 

初参加の方はもちろんですが、zoom越しにお会いしていた方同士でも、つい「はじめまして!」の言葉が口から出て、思わず笑ってしまいました。

 

真剣な、悩み深い話から、病院1階の変わりよう、入院あるあるに至るまで様々な話題が出て、「ええっ。」という驚きや共感の声、そして笑い声が絶えないひと時でした。やっぱり直接会って話せるのっていいなあ、と感じた2時間半でした。

今回も、コロナ禍の中一人で抱え込んできたストレスをようやく吐き出すことができました、という声が聞かれました。乳がんは近年新薬が次々と承認されてきていることもあり、治療の選択肢が増え、それは私たち患者にとって大変ありがたいことではありますが、反面、何を選択するのかで悩むことも増え、また新たなストレスを生んでいるところもあるのだなあとつくづく感じました。

 

ところで、こうした交流はこれまで半年あまり、オンラインでも行ってきました。Zoomを使って画面越しではありますが、顔の表情や身振りを通して、言葉を通して気持ちが通じ合ったり、元気をもらい合ったり、勇気づけられたり、、。がんになってからより感じるようになった言葉の力は侮れないし、どなたかがおっしゃっておられた「エネルギーの交換」のようなものを感じたこともありました。このコロナ禍においては多少咳をしていても参加可能、遠方に出かけなくてもよい、などのオンラインならではのメリットも大きいです。ご家庭の事情で外に出かけることが難しい時に、zoomだからこそ参加できた、という方もいらっしゃいます。

 

ただ、例えば隣の人の笑いが伝染してついつい笑ってしまうといったような場の雰囲気で生まれるもの、空気を伝わってひびきあうものは、やはり同じ場を共有した者同士でこそ生まれるのだなあ、とあらためて感じました。エネルギーがより直接伝わるようにも思えました。

 

お店が店主の方の趣味で植物いっぱい、パワースポットのような癒しの場であったことも一役買ってくれたように思いました。まさか築地にこんな隠れ家的なカフェがあったとは、という声が出るくらい、意外な場所でしたので。 うれしく、ありがたいひと時でした。

 

話題の中のひとつに、食事のことが出ました。

今回のコラムで食事のことについても触れようと思いましたが、長くなってしまいそうなので、この話は年明け、次回に載せたいと思います。

 

 

新しい変異株への警戒がはじまっています。1月のおしゃべりサロンも、できれば同じ場所でお会いできるといいなあと思っています。でも、もし何か状況が変わった時は、お茶を飲みながら、自宅でゆっくりと参加するのもありかな、くらいに心に余裕をもっておこうと思います。

 

行き帰りにかかる数時間は、自分の好きなことを楽しむゆとりの時間と前向きにとらえて!

 

体調に気をつけられて、どうぞよい年末年始をお過ごしください。

                               

                              2021年12月1日

 

🍂11月のコラム「筋肉の話」

 

天気のよい秋晴れの日は、外に出ると気持ちがいいですね。

 

暑すぎず寒すぎず、穏やかな日差しを浴びながらウォーキングをしていると、気持ちがすがすがしくなるので、この頃はできるだけ歩くようにしています。以前は自転車で行っていた買い物を、リュックを背負っててくてくと歩くようにしていると、心なしか体力もついてきたような気がします。帰りのリュックの重みが身体にちょうどいい感じに負荷をかけてくれる時と、買いすぎて少々オーバー気味の時とはありますが、、。

 

コロナ禍で身体を動かさないでいると、いろいろな支障がでてきます、と言われている昨今です。私の場合は、肩こり、腰痛、疲れやすさ、足腰の弱りがやってきます。

 

退院後もそうでした。一時、腰痛があまりにもひどくなり、眠れないほどになったため、いろいろな策を講じましたが、最終的には使わなくて弱ってしまった筋肉をつけることが大事だというところに行きつきました。そのころから、家でできる範囲で軽い筋トレやストレッチをしたり、DVDを見ながらヨガをやったり(ヨガもしっかりとやると心地よい筋肉痛になることを発見しました)、ウォーキングをしたり、、、その中でも、今ではウォーキングが一番のお気に入りです。

 

散歩よりもほんの少し早いテンポで歩きながら、あ、この樹はもう色づいてきたんだな、とか、紫陽花の花がドライフラワーになっていい味を出しているな、とか、、、季節によってかすかに漂う匂いもちがってきます。目と耳と鼻と肌で感じるのがとても心地よいのです。

 

腰痛改善によいのではと思い、地元のノルディックウォーキングのサークルに入ってウォーキングの極意を教わったことも、今となってはよかったと思っています。足裏全体で地面をつかむように、膝裏をのばして、などの歩き方にとどまらず、季節を楽しむ心のゆとりも教わった気がします。

 

そして、ひとまわり、ふたまわり年上のお姉さまがたの体幹バランスの見事さ。体幹を保つのに一役買っているのは筋肉です。刺激となりました。

 

みなさんは、何か身体を動かすことはしていますか。

 

運動することがいくつかのがんの予防に効果あり、という話を時々聞きます。でも、もうがんになってしまったのだし、、、と、一時の私はそんな気持ちでした。

そんな中、腰痛から必然的に運動せざるを得なくなったこともさることながら、筋肉を鍛えることはがん患者の延命に効果がある、ということをあらためて知りました。運動が乳がんの予後を改善するというエビデンスも出ています。

 

心を入れ替えました。

 

運動を通して身体の筋肉の中でも大きな割合を占める下肢を鍛えることは、とくに効率的なようです。

 

いろいろなことを知れば知るほど、今では、身体を動かすことは、これから先の人生を楽しむために、そしてQOL(生活の質)を高めるために、自分自身で今できることの大切な要素のひとつになりました。

 

体力が少なくなっている時でも、体力に応じてできることはたくさんあります。座ったままでの足踏みや、つま先の上げ下げ、、、。とにかく、身体に刺激を入れること、骨に刺激を与えること、筋肉を動かすことをこつこつと、です。人間の身体は動くようにできているから、動くことでいろいろな機能が活性化し、免疫機能が上がる効果もあるようです。

 

筋肉貯金、とまではいかなくても、自分の身体を支えてくれている筋肉に毎日挨拶をする、くらいは心がけたいものです。

                               2021年11月1日

 

🍐10月のコラム「不思議」

 

我が家の小さな畑に行った帰り道、お店に寄ったら、なし、ぶどう、りんご、柿、みかん、、、たくさんの果物が目に飛び込んできました。

 

地球の気候変動にさらされても、実を結び、秋を届けてくれる。農家さん、流通業者さん、お店の方々、はたまた土の中の微生物に至るまでさまざまな力が加わって、今、ここに存在してくれている。果物好きの私にとっては、思わずありがたい!と言いたくなる光景です。

 

それにしても、以前の私はこのようなことを感じたかなあ。不思議です。

 

この不思議が先日、なるほど、と思えたことがありました。今年になって、玉置妙憂さんの講演会に参加した時にお聞きした話を思い出したのです。玉置妙憂さんは看護師であり、看護教員であり、ケアマネジャー、僧侶でもある方。講演会やシンポジウムなどで活躍されています。

 

がんに罹患するなどして「自分の命に限りがある」と思えた時、家族や大切な近しい人の命の限りを見た時、そして、災害の時(今、まさにコロナ禍という災害の渦中と言えますね)、、、人は「人間ってなんてはかないのだろう」という思いを抱きます。これは「スピリチュアル」というWHOが健康の条件の4つめに掲げているものの扉を開くことなのです。このようなお話でした。

 

一昨年まで国立がん研中央病院の精神腫瘍科科長でいらした(現がん研有明病院の腫瘍精神科部長)清水研先生も、がん体験後に起こりうることのひとつに『精神性的変容』を挙げておられます。これは、「自然への感性が鋭敏になる」「超越的な力を感じ取りやすくなる」などということだそうです。

 

自分の感じた「不思議」はこうしたところからも来ているように思えました。

皆さんは、このような経験はありませんか。

                                            

先ほどの清水先生は、がん体験後の心の道筋を「物語る」ことの意味についてもおっしゃっておられます。人に話をすること、自分史を語ることは意味があること、と。語ることで大いに癒されることがあることがいくつかの研究からわかっているそうです。(メイプル ピアが、そのような場のひとつになれますように。)

 

畑のナスやピーマン、ししとうがらしは今でもがんばって実をつけています。長雨を乗り越え、台風を乗り越え、、、おそらく例年のように、霜が降りる頃までは元気に花を咲かせ、実を結ぶはずです。すごい生命力!このパワーがみなさまにも届きますように。

                          

                               2021年10月2日

 

🍆9月のコラム「不安について思うこと」

 

そういえば、最近セミの声を聴かなくなりました。暦の上では8月23日の処暑を過ぎると暑さが少しやわらぐ頃とされていますし、秋がもう近くまで来ているのでは、と感じることがありますが、外に出るとまだまだ暑い日々ですね。

 

そんな中、小田原で稲を育てている学生時代の友人から、順調に育っているよう、というメッセージとともに稲穂がついた一面グリーンの田んぼの画像が送られてきました。コロナでおろおろしているのは人間だけで、自然界の生き物や植物はこうしてたくましく生きているのだなあ、と思わずにはいられません。我が家の畑では、ナスがようやく息を吹き返して次々と実を結んできています。自然界の営みに学ぶことたくさんです。

 

ところで、先週のニュースで、10代へのコロナワクチン接種が進んでいる自治体が紹介されていました。少しずつワクチンへの不安をもつ人が少なくなってきている、としつつも、まだ「不安」をもっている人の中には正しい情報を知らないという人も多いそうです。コロナ禍のように先が見えないことからくる不安というものもあると思いますが、正しい情報を手にすることでなくなる「不安」というものも確実にある、それは私自身その不安の渦の中でもがいてきた一人ですので、自信をもって言えます。

 

告知を受けた直後にセカンドオピニオンを受けることを申し出たこと(セカンドオピニオンを受けに来るような病院であるのにも拘わらず)、更に検査結果を聞いてから治療を始めるまでに、真剣に転院を考えて探し回ったこと、これらは今思えば、正しい情報を知らなかったがゆえの「不安」からの回り道だったようにも思います。回りまわってここに戻って来てよかった、と今では思っていますが・・。

 

先月半ばに視聴した「代替療法」の講演会では、大野智先生が、がん治療中に補完代替療法を取り入れる人に共通することは「未来への不安」と話されていました。まさしく。そのことを知った上で、どう代替療法と向き合ったらよいかお話されていました。よい勉強になりました。

       

「不安」とどう向き合っていくか、それは、私たちががんとどう向き合っていくか、ということと同じくらい大事なテーマだと思っています。いろいろな考え方があるのかなあとも思います。いつかみなさんとこのテーマについておしゃべりできるといいなあと思っています。

 

今年も、振り返れば猛暑や長雨といった異常気象の夏でした。自分が頻繁に通院した年も猛暑と台風の夏で、それも過酷でしたが、さらにコロナ禍でみなさんが抱える不安はいかほどだったろう、無事に夏を乗り切っておられますように、と願います。

                             

                                2021年9月1日

 

 

                         

 

🌻8月のコラム「コロナ禍での夏」

 

コロナ禍と猛暑の大変な夏。でも、TVでオリンピックに出場するアスリートの方々の活躍や言葉を目にし、耳にしていると、一筋の希望が見えてくるような思いになります。苦しくてもあきらめずに進んできたことで、新しい道が見えてきた。コロナ禍でできなかった時期があったからこそ気づかされたこともあった。このような意味の言葉が、これまで以上に説得力のある言葉として響きます。自分自身もコロナを通して何に気づき、これから先何を目指していけばよいのか、あらためて問い直してみたいと思うこの頃です。

 

ところで、この夏はコロナワクチンが身近になり、もうすでに受けられた方もいらっしゃると思います。先日、がん研有明のドクターが「がん患者は治療を問わず、みな基礎疾患をもっていると考えていい。」と話されていました。この基礎疾患の程度やとらえ方については、がん種やその症状とともに、一人ひとりの治療の時期や機関、今の状態などを考慮しつつ最終的には主治医の判断を仰ぐのがよい、という補足はつけられていましたが、、。

 

また、乳がん患者はリンパ浮腫への影響を考慮し、術側と反対側に接種となりますが、両側にリスクがある場合は太ももという選択肢もあるようです。

得られた最新の情報から接種のベネフィットとリスクを天秤にかけてみる、このことは、がん治療を選択することと同じだなあと思いました。がん患者である私達は、治療の他にも人生のさまざまな選択をしてきていることも多いでしょう。ワクチンにおいても、主治医の先生と相談しながら正確な情報を得て、自分自身にとって一番良い選択をする、ということに尽きるように思います。

 

コロナに関する情報は、国立がん研究センターが運営している「がん情報サービス」から得られます。メイプル ピアのホームページ左上にある「がん情報サービス」のボタン(白地に緑色の文字)からも開いて見ることができます。がん患者の様々な疑問に答えてくれるQ&Aも載っていますので、気になることがあったら一度覗いてみてください。また、見る際はいつ更新された情報かというチェックもしてみてくださいね。
                           

                             2021年8月1日

 

🌽7月のコラム「蚊の季節」

梅雨の真っ只中です。晴れ間のない日が続くと鬱々としてきますが、みなさん、体調はいかがでしょうか。

しとしと降る雨音にはヒーリング効果があったり、どしゃ降りの後に発生するマイナスイオンは血圧を下げてくれたり疲労を癒してくれたりする効果もあるそうです。良いこともあるのですね。

先日は検査通院日でした。

GW明けに行った時とは対照的に、その日はどこも空いていました。血液検査も待ち時間0。毎回のことながら緊張感が高まる瞬間なので呼吸を整えて、、などと思う間もなく順番がきて、自然に呼吸してと言われてもやっぱり息が「うっ」と止まってしまいました。情けないことですが、採血で二度倒れてから血をとられることが大の苦手。術側と反対側が使えなくなってからはなおさら、です。

 

血の関連でもう一つ。

蚊の季節到来ですね。私はすでに数回刺されましたが、腕や脚、首と満遍なく刺されると、「やられた。」という気持ちとともに「ほっ。」とする気持ちも加わります。それは、数年前の術後はじめて迎えた夏の記憶がいまだに残っているからです。

 

センチネル検査、リンパ郭清と続き、リンパ浮腫のリスクがある人は夏は日焼けとともに蚊に刺されることにも注意を、とは知る人ぞ知る話。なので、とくに術側は気を付けていたつもりでしたが、蚊のほうが一枚うわてだったようで、隙間を狙われて、気が付くと幾度となく刺されてしまいました。対策をしていなかった反対側の腕は無傷だったのに。

そこからは、蜂窩織炎になったこと一度、腕中が蕁麻疹で腫れ上がったこと四度、うち二回は救急外来に走り、二回は氷水で冷やしてしのぎました。リンパ浮腫は発症していませんが、当時、蚊にはほとほと悩まされました。

 

そんな蚊も、3年目の夏を迎えた頃には術側集中攻撃の手を少し緩めてくれたようです。反対側を数年ぶりに刺してくれた蚊に「ありがとう。」だなんて自分でも笑ってしまいますが、まさにそんな気持ちでした。

 

この二夏続いた異常な状況は、主治医をはじめ医療者の方々には「聞いたことがない。」と言われて終わっていましたが、その後知り合った乳がんの友達から「私も術側だけ執拗に狙われた。」との話を聞きました。やっぱり!自分の思い込みでなかったと今でも思っています。(でも、この友人のほかには聞いたことがないので、これからの方はあまり心配しすぎないでくださいね。もちろん、最善の注意を払いつつも。)

話を通院に戻しますと、今回いよいよ噂の呼び出しブザー端末を初体験。と思いきや、とうとう1回も鳴らずに終わりました。4つの検査項目が入っていたので、チャンスは4回あったはずなのですが。   

                             2021年7月1日

      

 

☔6月のコラム 「臨床試験」

もうすっかり梅雨入りしたかのような日々。あじさいの青紫やアナベルの白がまぶしく映ります。食中毒には十分に気を付けたい時期ですね。

ニュースではワクチン接種の話題でもちきりです。ワクチンに関連して「臨床試験」という言葉をこの1年あまりでたびたび耳にするようになりました。

 

私がこの言葉をはじめて身近に感じたのは、5年前です。腫瘍内科の先生から病理検査結果を告げられた後、「治療は〇〇さんが納得してから始めたいので、じっくりと考えてきてください。」と1か月の猶予を与えられました。ちょうどその頃、新聞の一面に「国立がん研究センターで臨床試験の対象者を募集」という大見出しを発見し、自分がその対象に入るのかどうか先生に検討していただいたのを思い出します。その結果、私は対象者に引っかからないとわかったのですが、それからも折に触れて気になる言葉ではありました。間もなく知り合った友人からは、治験に参加したという話を聞きました。

それから2年後、国立がん研究センターがん対策情報センターの患者・市民パネルとなった時に再びその言葉を聞きました。全国から集まった患者・市民パネルのディスカッションのテーマに「がんの臨床試験」が取り上げられたため、事前に専門家の方の詳しい説明を聞きました。その時にはじめて、臨床研究の中に臨床試験、さらにその中に治験があるという位置づけやそれぞれの違いがはっきりとわかりました。臨床試験がなぜ必要なのかということも、何となくわかっているようで実は十分には理解できていなかったことにも気づかされました。

イギリスでは市民の臨床試験への参加割合が国の施策によって増えている一方で、日本ではなかなか患者参画が進んでいない、ということもその時に知りました。こうしたそれぞれの国の事情を知って今のコロナ禍での日本や欧米(とくにイギリス)のワクチン事情を耳にすると、いろいろと考えさせられます。

乳がんの新しい治療薬が次々と承認されている背景には、現在の「標準治療」よりもより良い治療を患者さんに届けたい、という目的で行われている臨床試験があり、そこに参画しているたくさんの患者さん達がいるからだなあとつくづく思います。そんなことを考えながら、ニュースに耳を傾けているこの頃です。

患者・市民パネルとしては今年度で4年目、任期満了を迎えますが、来年1月にまた次年度の募集が始まると思います。コラムを読んでくださっているみなさんも、もし興味がありましたら「がん体験者」として一度参加されてみてはいかがでしょうか。「国民目線でのよりよい情報発信」を目的としてホームページやがん冊子改善などに協力することが任務です。全国から集まった患者・市民パネル同士での情報交換もできますよ!

                                  

                               2021年6月2日
 

 

🍃5月のコラム「患者とドクター」

家の近くのハナミズキの樹がいつの間にかグリーン一色、新緑が目に沁みる頃となりました。コロナ自粛のGWをいかがお過ごしですか。

 

私はがんになってから野菜作りを始めましたが、ちょうどこの頃は種から植えたかぶや春菊の間引き、トマトやナスの苗植えによい時期なので土と向き合うことにしています。始めた当初は抗がん剤治療の真っただ中で、そのような時期に手を泥だらけにするのは無謀なことだったと後で知って青くなりましたが・・。

 

もう一つやりたいことは、本を読み終えることです。先月借りた本が一向に読み進まなかったので(お年頃のせいか目がしょぼしょぼ、疲れ目をいいわけにして)、ここで一気に最後まで読み進め、図書館の延長期間ぎりぎりに間に合わせたいという目論みです。

 

本を読めること=心に少し余裕があること、というのは10日間の入院生活で実感しました。11B棟に来てくれた友人たちが置いていってくれた本の山積みは、入院中はおろか

退院してからもしばらくは読む気持ちになれなかったのを思い出します。だいぶたって文字を終えるようになってからは、乾ききった砂漠が水を吸収するように言葉のひとつひとつをすうっと飲み込んでいった気がします。

 

昨年からのコロナ禍では、時に心が落ち着かなくなり、ざわつき、イライラし、、そんな時にも、やはり本に向かおうという気持ちになれませんでした。今、本に手が伸び始めているということは、メンタルそれほど悪くないのだなあ、と今では自分自身のバロメーターのひとつにもなっています。

 

みなさんは、何か日頃ご自身のバロメーターにしていることってありますか?

 

さて、今回読んでいる本は「話を聞かない医師、思いが言えない患者」(磯部光章著)です。3年前に、循環器内科がご専門の磯部先生のご講演を聞いて以来気になっていた本でした。

 

医師と患者のコミュニケーションギャップがなぜ生まれるのか、ということから始まります。自分の体験も重ね合わせながら読んでいますが、人間の判断がいかにいい加減であるかがわかる「お絵描き実習」の話や、「フレーミング効果のために情報は聞き手にとって都合のよいようにしか伝わらないことがある」というくだりは、あらためて、なるほど、でした。

筆者の願いでもある、医師と患者がよりよい関係を築いていくためのヒントが詰まっている本だと思います。長引くコロナ禍で医療者のひっ迫はますますなのではと心配です。患者としてできることって何だろう、「患者力」ってよく言われるけど、どのように医療者と向き合えばよいのだろう、などと考えながら読み進めています。

 

                                 2021年5月1日

 

🌸4月のコラム 「私の心の処方箋」
 

 

花冷えのこの頃、うっすら寒い日が続いています。気温の変化で体調を崩さないよう気を付けて過ごしていきたいところですね。

今回は、これから毎月1回発信していきます「メイプル ピアだより」のコラム第一回目です。その時、その時で感じたことを綴っていきたいと思っています。

メイプル ピアを作って間もないため、立ち上げメンバーで話し合いを重ねてはきているものの、ホームページひとつとってもまだまだ初 心者、ままならないことだらけです。一人でも多くの乳がんの方々に会についての思いを届けたい、でも、院内の会であるし、できれば関係する方、必要としている方のみに見ていただきたい、このようなジレンマの中でもがいている昨今です。
 
そんな中、今日はヨガで久しぶりに気持ちをリフレッシュさせることができました。乳がんが見つかって5年、その間、みなさんと同様さまざまな初体験とそれにまつわるからだや環境の変化の中で、メンタルがジェットコースターのように上がったり下がったり、、。不眠にも悩まされてきました。そんな最中に出会ったのが「がんヨガ」でした。心がざわついたり、もやもやしたり、自分が許せなかったり、、とにかく気持ちがしんどい時に、私にとってはとてもありがたい「心の処方箋」になりました。先生ご自身も乳がん体験者です。当時は「乳がんになる人は、とくに真面目でがんばり屋の人が多いのよね。もう、そんなにがんばらなくていいって自分に言ってあげて。」の言葉に涙があふれたことを今でも覚えています。
 
1か月ぶりのヨガでしたが、身体のいろいろな場所を伸ばしたり、呼吸法に取り組んだり、先生の心に響く言葉を聞いたりしている間に、いつものように固まっていた身体や心が開放されて、凝り固まっていた思考も少々ほぐされてきた気が・・。術後間もない時期に参加されていた方もいました。ヨガは呼吸法に重点を置いているため、主治医の先生の許可を得て手術後あまり間をあけずに始める方もいるそうです。先生曰く「手術を経験した人は肩甲骨の下の筋肉がとくに固まってしまうため、ヨガでなくとも日々動かすようにしてほしい。その時に心がけてほしいのは、やりすぎず、やらなさすぎず!」ヨガに限らず心がけます、はい。 


リンパ浮腫予防には皮膚のすぐ下のリンパを優しくマッサージすることに加えて、身体の深部にある大きなリンパを刺激してあげることも大事。腹式呼吸はその助けになる。最近言われていることで、患部の周辺のみにとらわれず、身体全体に意識を向けることも大切。全身の筋肉を鍛えることも重要、だそうです。ご自身もリンパ浮腫になられた先生の、説得力のある言葉でした。(この病院の先輩と後で知りました。) 


ヨガのほかにも、認知行動療法をかじったり、精神腫瘍科にお世話になったりしたことも

自身の助けになったことです。

   

みなさんも、心に効いた処方箋、それぞれがお持ちだと思います。まだ、これから見つけたいという方もいらっしゃるかもしれません。 

 

交流会ではいろいろな情報交換ができるのを楽しみにしています。 

                                                        2021年4月14日 

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